第26章 鬼を狩るもの✓
「炎と氷か…ふぅむ、確かに。三竦みの鬼ごっこと同じだ。この場合は君が鬼で、俺が逃げる側」
にこやかに笑いながら杏寿郎を指差す。
どこまでも戯に興じる姿勢は崩さないその姿に、杏寿郎は眉を顰めた。
童磨は「神経を逆撫でしてくる」と言っていたが、それはこちらも同じだ。
言動の一つ一つが癇に障る。
「不死川。頸を狩るぞ」
深呼吸を一つ。
喉を広げ一気に肺へと空気を送り込むと、杏寿郎は斬り込んだ。
一度目とは違い、斬撃は真っ直ぐには飛ばない。
辺りを覆う炎の渦が、童磨の視界を覆い尽くすように広がる。
渦は見えるが、本人の姿はない。
きょろりと童磨の瞳が揺れ動いた時、赤い刃は頸を掠めていた。
(やはり速い)
頬の時とは比べ物にならない血飛沫が上がる。
掠めた程度だったが、ぎらぎらと熱く燃え滾るような刃物は冷えた童磨の体を容易く引き裂いた。
(速度もそうだけど、力もそうだ。明らかに以前より上がっている)
ボ!と炎が吹き上がる。
姿もなく距離を詰めた杏寿郎から繰り出される、渾身の突きだ。
紙一重で裂けても熱が皮膚を焦がし、髪を焼く。
炎柱の斬撃と言う名に相応しい。
「人間っていうのは、本当に面白いなあ。感情一つで己の身体機能まで変えてしまうんだから」
しかし焦げた皮膚は直ち塗り替わるように新しい皮膚となり、焼けた髪は瞬く間にするりと元の長さに戻る。
無数の針のような突きを紙一重で躱し続けながら、童磨は鋭い犬歯を見せて笑った。
「だがどんなに心が強靭であっても、その変化に生身の体はついていけない。悲しいことだ」
刃に纏う荒ぶる炎を見透かしたように、冷えた童磨の皮膚が氷を張る。
薄い氷の膜で守られた皮膚は、先程と違い焦がされることはない。
「炎は氷を解かすというけれど、逆も然りだよ」
「ならば凍らせてみろッ!!」
真上へと大きく振りかぶった杏寿郎が、突きの残像が残されている間に次の技を繰り出した。
巨大な炎の塊を纏った斬撃が、真っ直ぐに童磨の脳天を狙う。
視界一面を覆う、巨大な炎。
それを前にしても童磨は身を退かなかった。
炎の揺らめきを虹色の瞳に映して、にんまりと笑う。