第26章 鬼を狩るもの✓
「凄い凄い! 柱の合体技なんて初めて見たよ!」
迎え撃つ童磨は目を輝かせると、笑顔を崩すことなく扇を構えた。
「なら俺も見せてあげよう」
ふわりと、扇を仰いだのは己の足元。
仰ぎに揺らぐ影波が、たぷりと小さな波を起こし──ぴしりと凍った。
足元が揺らぐような衝撃も、"それ"が這い出る過程も感じられなかった。
気付いたら其処にいたのだ。
氷で形成された、巨大な菩薩像が。
蛍の土佐錦魚が子犬に見える程に、遥かに巨大な菩薩像が、童磨を守るように立ちはだかる。
真正面から衝突した風と炎の斬撃により、大砲を打ち込まれたかのような衝撃と共に菩薩の胸に穴が空く。
大穴はその巨体を支えていられない。
がらがらと崩れ去る菩薩の姿は一瞬であったが、杏寿郎と実弥の目に焼き付かせるには十分だった。
「あれえ…一発で倒されちゃった。力みが足りなかったかな」
ぽかんと見守る童磨には、予想できていたことなのか。焦りは見られない。
(やっぱり"この体"だと限度があるなあ。もう少し踏ん張らないと)
まじまじと己の体を見下ろし頷く童磨とは相反し、足を止めた実弥がギリ、と歯を噛み合わせる。
「なんだァあの技は…(今までの技の比じゃねェぞ…あいつの底は何処にあんだ)」
「…不死川」
柱二人の連撃でも倒せない。
それが上弦の鬼の力なのか。
今までに感じたことのない、ひやりと首筋に寒気を覚える実弥の隣に、杏寿郎が足を着く。
「相手は鬼だ。俺達の知る世の理とは逸脱している。…持久戦は不利だ、一気に畳む」
「あんな馬鹿デケェ盾をぽんぽん出されちゃあ、斬れるモンも斬れねェぞ」
「俺がやろう」
「策でもあんのか?」
「…いや」
一歩。実弥を追い抜き前に出た杏寿郎が、赤い刀身を童磨の姿に重ねるようにして構える。
「生憎とこの状況を打破する策はないが、痴れ言(しれごと)のような案ならある」
闘気を帯びるように、熱く伝わる刃。
炎の呼吸に相応しい、その刀を薄く笑う鬼に突き付けた。
「俺は炎柱だ。その場の感情で戯に興じるような氷鬼(ひょうき)に、この刃は負けん」