第26章 鬼を狩るもの✓
吐き出したい感情は幾つだってある。
しかしこれ以上は蛍に時間が残されていない。
臨戦態勢に入る杏寿郎に、実弥の唇の端からシィィと微かな呼吸が紡ぎ出される。
合図はない。
予備動作もなく影波を蹴り上げた杏寿郎が、水飛沫を上げて童磨へと斬り込んだ。
体を後ろに倒すようにして刃を避ける。
しかし切っ先は届いていたのか、ぱっと童磨の頬から赤い霧が舞った。
(速い)
目の前の鬼狩りを把握する前に、反らした童磨の顔に影がかかる。
頸を右へと捻り倒せば、真上から槍のように突き下ろされた刀が皮膚すれすれを擦った。
シィィ、と木枯らしのような呼吸音を耳で拾う。
(実力からして、鬼狩りの柱二匹)
鉄塊が衝突し合うような、鋭い打撃。
次々と繰り出される炎と風の斬撃を、童磨が二対の扇で裁いていく。
その度に炎の熱が皮膚を焼き、風の刃が皮膚を裂く。
蛍という盾がない今、致命傷ではないが無傷でいられないのは柱と呼ばれるだけの実力か。
(うーん、聊か面倒だ。切り離すか)
〝血鬼術──散り蓮華(ちりれんげ)〟
両手を交差させるようにして扇を左右に振る。
途端に小さな硝子のような氷の花弁が、吹雪のように吹き出した。
「チィ! 涼しい顔してぽんぽんとデケェ技打ちやがる…!」
「不死川! 相手は広範囲の攻撃を得意とする者だ! 距離を取らせるな!!」
「わかってらァ!」
美しい花吹雪のような技は、その全てが刃物となる脅威のものだ。
実弥と杏寿郎、共に吹雪へと体を向けたまま後退しながら、呼吸で無数の刃を薙ぎ払った。
「呼吸を合わせんぞ煉獄! しっかりついて来やがれェ!」
先手を取ったのは実弥だった。
〝壱ノ型──塵旋風・削ぎ(じんせんぷう・そぎ)〟
踵を突き落とすようにして足を止めると、即座に右肩へと大きく刃を振りかぶる。
地となる影波をも巻き込み、竜巻のような斬撃が横に飛ぶ。
氷吹雪を全て削り飛ばしながら垂直に飛ぶ斬撃は、実弥が駆け抜けた道全てを薙ぎ払った。
「むんッ!!」
そこに連なる炎の呼吸〝盛炎のうねり〟。
実弥の塵旋風にとぐろを巻くように絡み付くと、一つの斬撃と化し童磨に襲いかかった。