第26章 鬼を狩るもの✓
「なんだなんだ、俺の頸を狩ろうって言うのかい? 哀しいことを言わないでおくれよ、蛍ちゃん」
「テメェの頸を狩るのはこの刃だァ。勘違いしてんじゃねェぞ」
「お前の毒牙から人々を守る為に、蛍は全神経を注いでいる。話しかけるな」
「ふぅん…やっぱり俺の神経を逆撫でしてくるなあ。君は」
童磨の視界から隠すように、杏寿郎が蛍の前に立つ。
どこまでいっても濁ることのない双眸をつまらなさそうに見ると、童磨は溜息をついた。
「仕方ない。あの子は君が殺してしまったから連れていけないけど、蛍ちゃんは鬼としても貴重な情報だ。返してもらうよ」
「ふざけたことを」
みしりと、日輪刀を握る手に血管が浮き出る。
童磨が杏寿郎を嫌うように、杏寿郎もまたこの鬼にどうしようもない嫌悪感を抱いていた。
天元に「人たらし」と命名される程、誰とでも清々しい程に良好な関係を築くことができる。
その理由の一つには、杏寿郎の懐の広さがある。
口数少なく背を向ける義勇にも細やかに声をかけ、口調荒く時に拳を交える実弥にも笑顔で向かっていく。
そんな杏寿郎だからこそ、反りが合わない相手という者は自然と少なくなる。
花街で出会った松風は少ないその一人だったが、一方的に松風が苦手意識を持っていただけで、杏寿郎自身は彼女を好いていた。
鬼に対しては言動に不快感を覚え、憤りを感じることも多々あった。
それも杏寿郎の心根にある、他者を愛する思いからだ。
しかし童磨に至っては、その比ではない。
その口から蛍の名を聞くだけで虫唾が走る。
その瞳に蛍を映すだけで悪心(おしん)を覚える。
「元からお前のものではない。所有者ぶるな」
欲の塗れた手で触れ、蛍の心を乱した。
頭の片隅に最悪の結果が微かに過るだけで、目の前が真っ赤に染まりそうになる。
身を焦がしそうな程の憎悪。
「へえ。君がそれを言うのかな?」
「同じ手法は喰わない。鬼だの人間だのと、逐一理由を付けて否定するお前には一生わからないものだ」