第26章 鬼を狩るもの✓
何故。
蛍はテンジと共に消えたはず。
そんな問いは生まれなかった。
それよりもただただ、ようやく捜し当てた彼女の姿に目の奥が熱くなる。
今度こそ触れられるだろうか。
捕まえられるだろうか。
無意識に蛍へと手が伸びる。
「ごめん、なさい。私──」
「ッ!」
その手も、蛍の言葉も遮ったのは、世界の終わりだった。
崩壊しきった闇の世界が、テンジ同様塵となり消えていく。
「煉獄ッ!!!」
「不死川…!」
同時に外で待機していた実弥達の姿も、二人の視界に映し出した。
「(そいつァ…)受け取れェ!!」
「きゃあッ!!」
杏寿郎が跨っている巨大な土佐錦魚の正体を、事前に手紙で知らされていた実弥はすぐに理解した。
宙で器用に体を捻り、振りかぶった何かを杏寿郎へと放り投げる。
咄嗟に受け身を取った杏寿郎の腕に抱かれたのは、八重美だった。
「いでェッ!」
間髪入れず与助の姿も続く。
なんなく二人を受け止めた杏寿郎が、その手を土佐錦魚の鰭に掴まるように導く。
「しっかり掴まって下さい! この魚は無害ですから!」
「は、はい…っ」
「いでででェ! 手がァ…!」
「今は泣き言を言ってる場合じゃない! 命が惜しくばしっかり掴まっていろ!!」
戻ってきた痛みに、与助の噎びが情けなく響き渡る。
無事な手をしっかりと土佐錦魚の背鰭の裏に掴ませ、杏寿郎は蛍へと指示を飛ばした。
「蛍! 不死川も拾ってくれ!! まだ此処には鬼が──」
「やあやあ。あの少年を殺したのかい?」
パキン、と霜を張る音が耳に届く。
ふ、とかかる影に杏寿郎が見上げた先──其処には、虹色の瞳を持つ鬼がいた。
「これじゃあ俺達全員、真っ逆さまだ」
蛍と杏寿郎を飲み込んでいた闇だけでなく、永遠に続く藍色の地平線の世界も崩壊していく。
その罅割れからは、現実世界が垣間見えていた。
並ぶ家々は、テンジの世界で見上げていたように高い位置にある。
常人であれば当たりが悪ければ死に至る高さだ。
杏寿郎や実弥なら呼吸技を使い衝突を回避できるだろうが、此処にはそれを許さない鬼がいる。