第26章 鬼を狩るもの✓
「助かった。一先ずはこれでどうにか」
「ッぅう」
「っ柚霧!?」
土佐錦魚により崩壊から脱出はできたが、呻く柚霧の苦し気な声に杏寿郎ははっとした。
テンジの能力全てが解除されたのだ。
反転した世界の崩壊だけでなく、取り除いていた"痛み"もまた戻ってくる。
腕と足を失い、残された手も指を折られ散々たる柚霧には、平然としていられる痛みではなかった。
土佐錦魚の背に乗ったまま身を乗り出し、胸鰭の上で俯く柚霧を見下ろす。
「(くそ…ッ)この世界が壊れるならば、現実世界へ戻れるはずだ! それまで耐えきれるか…!?」
「っ大丈、夫」
土佐錦魚の鱗に手をかけ、細く呼吸を繰り返しながら脈を落ち着かせる。
額にじんわりと脂汗を滲ませて、柚霧は顔を上げて笑った。
「私は、炎柱の継子だから。これくらい平気」
それは京都で炎の呼吸技、炎虎に腕を喰われた時と同じ顔をしていた。
ぎこちなさはあったが、あの時も顔を地面に擦り付けた跡もものともせずに彼女は笑ったのだ。
金輪の双眸が今まで以上に大きく見開く。
知っている。
見間違うはずがない。
闇にも紛れない、あの鮮やかな緋色の瞳を持つ女性は。
「っ……ほたる…?」
凛々しい程に上がる太い眉尻が、僅かに下がる。
それでも半信半疑のような問いかけに、柚霧──そして蛍は、目尻を緩めて泣きそうに笑った。
「ただいま、杏寿郎」