第26章 鬼を狩るもの✓
──ぼろり、ほろり。
少年の体は炎に焼かれた小さな燃えかすのようなものに変わり、やがてはそれも塵と化す。
空気へと混じり、跡形もなく消えていく。
「……」
腕の中からその姿が完全に消え去るまで、柚霧は抱きしめ続けていた。
唇を噛み、きつく眉間に皺を刻み、震えようとする体に鞭を打って。
これが最善だったのだ。
鬼として生き続けることで、底のない恨みを募らせ苦しみ続ける彼らを救うには。
それでも胸の奥は晴れない。
痛くはなかっただろうか。
苦しくはなかっただろうか。
お日様と告げたあの顔は、まるで日なたで笑う人間の子供のようだった。
彼の中にいたあの子達も、苦しまずに逝けたのだろうか。
「──っ」
はっと、柚霧の目が見開く。
穴が空く程に膝下を見つめながら、その目は何も見ていない。
濁りの残っていた瞳が、鮮やかな緋色へと変わる。
ただただその目を見開き、やがてくしゃりと表情を崩した。
「…っ……てん、じ…」
腕の中の温もりが消える。
それでも少年の優しさは、最期までこの身に溢れていた。
何故なら、
──ゴッ
「「!?」」
感傷に浸る余裕もなく、それは突如として柚霧と杏寿郎を襲った。
地面が揺らぐ。
地震のような類ではない。
波のようにうねりぐらぐらと大きく傾く足場は、一気に崩壊を始めたのだ。
「(テンジが消滅したんだ、この世界は──…!)柚霧ッ!!」
創造主が消えれば、世界も消えるのは道理。
足場が崩れ宙へと放り出されながら、杏寿郎は柚霧へと手を伸ばした。
しかし届かない。
柚霧は噛み締めていた口を開くと、まるでそうすべきだと理解していたかのように呼んだ。
「おいで」
応えたのは、巨大な影。
水中を舞う天女のように、扇のような尾鰭を揺らし柚霧を背後から攫ったのは、あの土佐錦魚だった。
胸鰭で柚霧の体を背中から受け止めると、そのまま杏寿郎の所へと突進する。
咄嗟に日輪刀を退き、杏寿郎もまた立派な背鰭へと掴まった。