第26章 鬼を狩るもの✓
「みら、い?」
「テンジには、将来の夢とかあるの?」
「ゆめ…」
「成りたいもの。したいこと。行きたい場所や、見たいもの。なんでもいい。自由に夢を見ていいの」
「なんで?」
「んー…それが子供の特権みたいなものだから、かなぁ。大人になった自分を好きに想像して、自由な世界を冒険するの」
「おとな…きらい。おとな、なる。いや」
「大人に、なりたくない?」
「ん」
「そっか…それならテンジの願いは叶うよ。私達は鬼だから、望めば今の姿のままずっと生きていられるんだって」
「ずっと?」
「ずっと」
「ずっと、いい! このまま。てんじ、ほたる、このまま!」
「うん。テンジが望むなら、テンジも私も、この姿のまま生き続けられる。怪我をしても勝手に治るし、暑さも寒さも平気。眠らなくてもいいんだって」
童磨から聞いた鬼の話を、点々と語る。
一見すれば、喉から手が出る程の魅力的な肉体だろう。
老いも、病も、死さえも超越してしまうのだ。
同じにそれが理想だと、爛々と目を輝かせるテンジに、柚霧もつられて微笑む。
その目に、沈んだ色を含んで。
「そうして、ずっと生きていける。ずっと……あの子達の苦しみも、抱えたまま」
「…?」
「テンジの中で、苦しみながら生きている子達がいる。人を憎むことしかできない、恨むことしかできない。そうして名前や記憶を奪ったところで、気が晴れることもないのに。死に落ちた時の感情を忘れられずに、苦しんでいる子達がいる」
「……」
「自分の名前も忘れてしまったのに、自分を殺した者への憎しみは憶えているの。あの子達も、ずっと苦しみ続けるんだよ」
告げなくともわかっているはずだ。テンジなら。
同じ肉体を共有し、誰よりも近い心で寄り添ってきた少年なら。
「お願い。あの子達がテンジの一番だと言うなら、これ以上苦しませないで。…守って、あげて」
「…っ…」
戸惑いを隠せないテンジが、声を詰まらせる。
小さな体を更に縮めて、不安そうにさ迷う瞳に、柚霧はそっと顔を寄せた。
額と呼べるかもわからない皮膚に、己の額を重ねる。
「テンジのことは、私が守るから」