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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✓



(何より憎むべき相手でありながら、それを欲するのは幼さ故か……いや。それこそがこの世への"執着"なのだろうな)


 鬼の見た目は実年齢と比例しない。
 幼い見た目のテンジが一体何年その姿で生きてきたのか、杏寿郎には想像もつかない。
 しかし千寿郎から聞いた"神隠し"というものは、点々と場所や時代を変えながら、昔から伝えられてきたものだ。

 もしその忽然と消え去った人々の全てが、テンジの牙にかかっていたのだとしたら。


「テンジ。蛍の顔を見ろ」

「っ…?」

「母を思うなら、そんな顔をさせるのが君の望みか」


 片腕と片足を失い、残された手も指を折られ散々たる姿をしている柚霧だったが、何よりテンジの目を止めたのはその顔だった。

 唇を噛み、眉尻を下げ、眉間に皺を刻み。何かに耐えるようにテンジを見つめている。
 今にも泣きそうにも見える、歪んだ顔だ。


「私のことは、いいんです…」

「ほたる…ごめ」

「謝らなくていい。謝らなくていいから…私の言葉を、聞いて」


 突き放した小さな手を、折れた指で握る。
 今まで壊れ物を扱うかのように、優しく触れてきた。
 その行為とは一変して、柚霧は強く握りしめた手を引き寄せた。


「柚霧! テンジは」

(わかってます。もう十分、わかりました)


 振り返る柚霧の訴える目に、杏寿郎の声が止まる。


「(私に話をさせて下さい。その他は全部、杏寿郎さんに任せます。邪魔もしません。だから、言葉だけ)──伝えさせて」


 互いの思考は、土佐錦魚により繋がっている。
 だからこそ多くの言葉はいらなかった。

 わかってしまった。
 見えてしまったのだ。
 杏寿郎がテンジの在り方を悟ると同時に、柚霧にもその先の姿が。


「…テンジ…私と未来の、話をしよう」

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