第26章 鬼を狩るもの✓
「悩み、躓き、葛藤し、選び、進み、また悩む。彼女の世界に向ける思いは、いつも懸命でいじらしい。故に愛おしいんだ」
片膝を着いて、テンジの視線に寄せる。
告げる杏寿郎の瞳の奥を、テンジは見逃さなかった。
見開く鋭い双眸は、怖いものだとばかり思っていた。
しかし柔く細められるその瞳の奥には、あたたかい色が宿っている。
「君も知っているだろう? 一等大切だから、切り捨てることなどできない。愛おしいと思うから、誰よりも傍にいたい」
「…てんじ、いちばん…みんな。いちばん」
「うむ。俺は一人の女性を愛したが、君の愛は等しく広大なのだな。宇髄のようだ」
「うず…?」
「なに、こちらの話だ。…しかしテンジ。君は人よりも鬼を選んだ。鬼殺隊として、それを見過ごすことはできない」
「きさつ、たい?」
「世の人々を、鬼の脅威から守る組織のことだ」
不安げな柚霧の視線が、杏寿郎を無言で訴える。
その視線に気付きながら、杏寿郎は片時もテンジから目を離さなかった。
今は己が見定めるべき鬼が、目の前にいる。
「鬼は人を喰らうんだ。人が米や魚を食らうように、餌として喰らう。人である俺から見れば、許し難いことだ」
「てんじ、たべない。ひと。…こわい、」
「…君からは、悪鬼の纏う腐臭や悪臭はしない。人に手を下さないのは、本当なのかもしれないな…」
禰豆子のように、飢餓を自身で抑え込み、人を喰らわず生きる鬼がいる。
その可能性はテンジにもある。
だから感知能力の高い実弥も、獅子舞や手鏡など身近にテンジを感じるものがあっても「悪鬼の気配はない」と口にしていた。
傍に身を置けば、改めてわかる。
テンジに悪鬼特有の禍々しさはない。
「ならばこれからも、この世界で生きていくのか? 君と、君の中に住まう兄弟達と共に」
「ん」
「そして、他人の名を奪っていくのか?」
「うば…?」
「杏寿郎さん。テンジは、」
耐え切れず柚霧が口を挟む。
「うばう、ちがう。あそぶ。だけ」
その続きを模倣するように、無邪気な声で告げる。
テンジのその姿に、柚霧ははっとした。