第26章 鬼を狩るもの✓
「…皆が、嫌がることだから?」
「ん…」
「テンジは、それでいいの…?」
「…みんな、かなしい。いや」
「…そっか…」
無数の小鬼の命達が、何故テンジの声なら聞くのかわかる気がした。
この世界で誰よりも優しく、他人を思いやることのできる無垢な鬼の子。
それ故にここまで膨らんでしまった身体と心を持て余しても、全てを抱え続けるだろう。
(どうしよう…答えが、見つからない)
例え人と歩む道が絶たれてしまっても。
「…下ろしてくれるか」
臨戦態勢を取ったまま様子を見ていた杏寿郎が、不意にその構えを解く。
静かに告げた指示に従い、土佐錦魚はゆっくりと地面へ降下した。
二人から離れた場所で、地に足を着く。
すぅ、と空気を吸い込むと、カッと双眸を見開いた。
「テンジッッ!!!!」
「ひゃっ」
「っ!?」
びりびりと空気も震わすような声に、沈んでいた柚霧とテンジの体がびくりと跳ねる。
驚き振り返る二人を遠目から見つめたまま、更に杏寿郎は呼びかけた。
「そちらへ行ってもいいだろうか!!」
「き…杏寿郎さん…?」
「きょ、じゅ…」
「不用意に触れたりはしない!! いいだろうか!?」
「ぁ…テンジ。杏寿郎さんが、傍に来てもいいかって」
「そば…」
「多分、別の子が嫌がったから。テンジも嫌がると思ってるんじゃないかな」
「……」
遠目でも強く目を引く杏寿郎の容姿を、じっと見つめる。
やがてこくりと、テンジは小さく一度だけ頷いた。
「杏寿郎さん」
柚霧が大きく頷いてみせれば、日輪刀を鞘へと戻した杏寿郎が踏み出す。
その手は得物の柄に添えたまま。口元には笑みを浮かべて、ゆっくりと歩み寄った。
「やあ。今度こそ君に自己紹介ができるな。俺の名は、煉獄杏寿郎」
「…ほたる、だいじ。ひと」
「うむ。俺にとっても、蛍は何にも代え難い大切なひとだ」
「ほたる、おに。ひと、ちがう」
「…そうだな。確かに蛍は鬼だ。だがその心は、誰よりも人らしいものだと思っている」