第26章 鬼を狩るもの✓
「…君は、どうしたいの…? どうしたら、その苦しみを和らげることができる?」
もし鬼である自分の声が届くなら。
そんな藁にも縋る思いで、呼びかけた。
頭を下げて、テンジの高さに目線を合わせる。
自分には杏寿郎のような、力強く引き上げるような言葉はかけられない。
踏み荒らすことなく、優しく心に寄り添う術も知らない。
だから問いかけた。
何より彼らのことは、彼ら自身が知っているはずだ。
「…わからない…」
しかし返されたのは、途方もない呟き。
「わからない…つかれた…」
だらりと下がる血に染まった両手。
すぐさま完治を終えた皮膚には、傷一つ残していない。
しかしその歪な姿こそが、物語っているようだった。
異形であるその顔も、体も、本来ならこの世に生まれてはいなかったものだ。
そんな姿でこの世に存在すること事態が、異端なのだと。
「もう、つかれた…もう、いい」
「ぇ…」
「あいつが、それでいいなら。もう、いい」
力なく、テンジの顔が柚霧の胸に落ちる。
「あいつが、いちばんだから。みんな、それでいい」
「一番って…そんなの…」
心に優劣など付けられない。
それでも柚霧が最後まで否定できなかったのは、テンジの存在自体が規格外だったからだ。
順番など付けられはしない。
しかしこの小さな身体には、決して混ざり合うことのない心の衝突は負担が大き過ぎた。
「あいつが、さいしょだった。あいつが、みんなをひろってくれたから。みんな、あいつのこえならきく」
血に染まった指先が、躊躇するように伸びる。
触れたのは、柚霧の破れたブラウスの袖。
「ぼくのこえは、ほたるがきいてくれたから。もう、いい」
縋るように、きゅっと袖の先を握る。
「…いたいことして、ごめん」
蚊の鳴くような囁きだった。
泣き出す一歩手間のような声だった。
そんなことはない。痛みなんて一度も与えられなかったと、そう告げる前に。
力を失った手は袖から離れ、ぱたりと落ちた。