第26章 鬼を狩るもの✓
「…どう? テンジ。此処から出られそう?」
「ぅぅ…」
「難しい?」
「ぅー…」
あっちへ捻り。こっちへ捻り。
赤子のような声を上げるテンジを、後ろから柚霧が覗き込む。
「あ。」
「え?」
それも束の間。
ぴんと背筋を伸ばしたかと思えば、テンジが徐に振り返る。
「ほたる?」
「あ、うん。話しかけても大丈夫?」
「ん。ほたる、ここ、でたい」
「うん。テンジと一緒にね。それで、あの…できたら私も協力したいなって」
「きょうりょく?」
「多分、テンジの力と、私の力とがこう…絡まってるような状況、なのかな? 私も把握はしてないんだけど、私も無関係じゃないみたいだから。一緒に出る方法を見つけよう」
「いっしょ…」
歪な目が、じっと柚霧を見上げていた。
と、きょろりと瞳孔が回り動く。
「それ、も。いっしょ?」
「ああ」
「! 杏寿郎さん…っ」
テンジの問いに応えたのは、柚霧ではなかった。
土佐錦魚と共に傍まで歩んで来ていた杏寿郎が、更に前へ一歩踏み出す。
「先程は手荒な真似をしてすまなかった。また君の手で蛍を連れ去られると思ったからな」
土佐錦魚は杏寿郎の姿を消すことを止めたのか。ゆらりと大きな尾鰭をなびかせて、柚霧の傍へと身を寄せた。
「俺は煉獄杏寿郎。蛍の師として、人と共に生きる道を模索している者だ!」
「…きょ…じゅ…」
「うむ。俺のこの日輪刀は、鬼を斬り裂くことができる。鬼の術も等しく、だ。この力が何か役に立つかもしれない。俺も脱出の協力をさせてくれないか」
「きょうりょく…いっしょ?」
「そうだ!」
「きょう、じゅ…ろ」
「そうだ!!」
「ほたると、いっしょ」
「そうだな!!」
ぽつぽつと返すテンジに対し、快活に拾っていく杏寿郎。
テンポよく続く会話に、ふと違和感を覚えたのは柚霧だった。
「なんで、いっしょ?」
「…テンジ?」
「ほたるおに。てんじおに。きょうじゅろう、おに。じゃない」
淡々と告げる声には拙さが残っていたが、何かが違う。
「なのに、なんでいっしょ?」
こんなにも容易く、単語を繋げて話していただろうか。