第26章 鬼を狩るもの✓
「じゃあまずは、この中から出ないとね」
「なか?」
仕切り直すように抱擁を解いた柚霧が、明るい声で告げる。
「私もよくわからないけど、ここ、テンジが作り上げた空間なんでしょ?」
「…?」
「あ。その顔わかってない感じ…」
「てんじ、ちから。みんな、ちから」
「うーん、そっか…」
テンジは一つの魂からできている訳ではない。
無数の鬼が寄り集まり、身に付けた血鬼術だ。
今目の前で語り掛けているのもテンジだが、この体は少年一人のものではないのだ。
「じゃあ、こう、術を解いたりとかって、できないのかな?」
「と、く?」
「えーっと…この世界を、消す。というか…外に出る為に、穴を開けるというか…そんな感じ」
そもそもこの世界がどういう造りをしているのか、柚霧にもわからない。
手振り身振りでどうにかわかり易く伝えようとしていると、脳裏に沈黙を貫いていた声が届いた。
(血鬼術の類であれば、呼吸法で脱することができるかもしれない)
(! 杏寿郎さん)
弾けるように顔を上げて振り返れば、巨大な土佐錦魚の傍に身を置く炎のような人影が見えた。
ほ、と柚霧の表情が緩む。
周りは未知のものばかりだが、ただ一人、この世で知っている人がいる。
彼へ抱いた想いの大きさも、向けてくれた感情の器も知っている。
それだけの心を交した杏寿郎を目にすれば、自然と安心できた。
「あのね、テンジ」
「みんな。きく。する」
「え?」
「ここ。でる。みんな、はなす。する」
杏寿郎の提案を話そうとすれば、握り拳を作ったテンジが別の提案を持ちかけた。
意気込み告げる様は、やる気に満ち満ちている。
「えっと…テンジの中にいる皆に、脱出法を訊いてみるってこと?」
「ん!」
「成程…わかった」
(柚霧)
「はい」
「?」
「あ、なんでもないよ。こっちの話」
頸を傾げるテンジに笑顔を向けて、脳裏に意識を繋げる。
二人同時に相手をするのは困難だったが、テンジもまた自身の中に存在する兄妹に意識を繋げているのか。それ以上、意味深な視線を向けられることはなかった。