第26章 鬼を狩るもの✓
「ぁ…ぃ…?」
「うん」
「いき、る」
「うん」
「……きょ、じゅ…?」
「…うん」
恐る恐ると告げてくる声は、拙い。
それでも理解していない訳ではない。
わかっているのだ。
愛に焦がれて止まない子供だからこそ。
「杏寿郎さんの生きる世界で、私も生きていたい」
「っ…てんじ…だめ…?」
歪な瞳が不安で揺らぐ。
薄い水の膜を張るその瞳から、目を逸らさずに。柚霧はそっと額を重ね合わせた。
「何言ってるの。テンジもその世界にいてくれなきゃ」
「…も…?」
「言ったでしょ。私、我儘だから。テンジにも、同じ世界で生きて欲しい。一緒にいたい。離れたくないよ」
「ッ…てん、じ、も?」
「うん」
大きく見開く瞳が、柚霧の微笑みを捉える。
歪な両手を伸ばして、ぎゅっと胸に縋り付いた。
「ほたる、いっしょ…っ」
「うん」
「てんじ、いちばん?」
「順番はつけられないかなぁ。テンジだって、此処にいる子達皆に、好きの順番なんてつけられないでしょ?」
「…ん。みんな。いちばん」
「そういうこと」
胸に頬を擦り寄せて、背中に小さな手で縋って。体全体で好きを伝えてくるテンジを、柚霧は優しく抱き止めた。
「でもね。テンジは、特別な子だから」
「とく…?」
「世界にたった一人だけ。テンジの代わりは誰もなれないってこと」
その場を取り繕う為の言葉ではない。
彼は、彼らは、特別な鬼の子だ。
人間の血肉を喰らわずに、生きていける。
あんなにも優しさで満ちた世界を、創り出すことができる。
それは上弦である童磨にも、できないことなのだから。
「ほたる、の…とく、べつ?」
「私だけじゃないよ。この世界でだって、特別なんだから」
「せか、い」
「うん。だって私はテンジみたいな鬼の子、知らないもの」
記憶がないからではない。
彼らのような鬼に出会ったのは、初めてだという確信はあった。
童磨にあんなに聞かされても信じ難かったものが、テンジ相手だとすんなり受け入れられたのだ。
この世に蔓延る〝鬼〟という存在を。
「…とくべつ…」
拙い声が、噛み締めるように呟いた。