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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✓



「言ったでしょ? 私と一緒に外の世界に行こうって。私がテンジを守るから。だから、外の人達と会ってみて欲しいの」


 蛍としての記憶はなくなっていても、テンジとの記憶は残されていた。
 そこで確かに、希望を持てたのだ。
 この子はきっと『   』のような鬼になれる。


(誰、だっけ…)


 空白を埋められる名前は思い出せない。
 しかし確かに、希望を見出した誰かがいた。

 あの少女は、自分とは違う。
 特別な鬼なのだからと。


「ぃゃ…そと、こわい」

「外は、怖いの? なんで?」

「にん、げん…こわい」

「大丈夫。私が守るよ。ずっとテンジの傍にいる」

「ほたる、と。ここ、いる。ずっと、いっしょ」

「此処がいいの?」

「ん」

「…確かに、此処は痛みを感じない。暑さも寒さも感じない。攻撃してくるような人も、いない」


 テンジの理想が形となったものなのだろう。
 この世界には、住人を傷付けるようなものはない。


「でも、優しくしてくれる人もいない。抱きしめて、体温を分かち合える人も。おかえりと迎えてくれる人も。嬉しいことも、楽しいことも、一緒に感じ合える人が此処にはいないの」

「…ほたる…いる、」

「…私は、テンジと二人きりの世界は、寂しいよ」


 おずおずと見上げていた歪な目が、大きく見開く。


「私、我儘だから。私の大切な人だけじゃなくて、その人が大切にしている人達も、同じに大事にしたいの。大好きな人が抱える世界を、私も同じに背負いたい。その人だけじゃ駄目なの。その人をその人たらしめるものも丸ごと、愛していたいから」

「ぅ…?」

「難しいかな。ごめんね」


 戸惑い頸を傾げるテンジの頬に、そっと掌を添える。


「私はね、私の愛する人と、その人の世界も守っていたいの。…その世界で、生きていたい」


 最初は、ただ一つだけだった。
 求めたものは、ただそれだけ。

 次第にそれだけでは足りなくなった。
 愛が枯渇した訳ではない。
 寧ろ尽きることなく溢れ出るこの感情を、向けられる居場所を探した。

 一つでは足りない。二つでも足りない。
 貰うだけではなく捧げたい。愛していたいのだ。

 彼が愛してやまない世界の片隅で、笑っていられるように。

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