第26章 鬼を狩るもの✓
「…外では俺の仲間が童磨と戦っている。時間は余り取れないと思ってくれ」
(わかりました)
頷く柚霧を遠目に確認して、溜息とも深呼吸とも取れない吐息をつく。
視線を感じ取れば、胸から顔を離した土佐錦魚がじっとこちらを見つめていた。
「然るべき時には出る。それまでは見守っていよう」
柚霧の安否を気にするのは、土佐錦魚も同じなのか。
感情の見えない眼を柚霧へと向けて、こぽりと気泡を一つ浮かび上がらせた。
「──テンジ、」
すぅ、と静かに深く息を吸う。
柚霧が意を決して膝に寝転がるテンジを見下ろせば、呼びかける前からその目はこちらに向いていた。
「おわり?」
「え?」
「ほたる。べつ。みてた」
「ぇ…」
まるで杏寿郎との心の疎通を読み取られていたかのように指摘されて、心臓が跳ねる。
「別、って…」
「もう、いい?」
「ぁ…うん」
歪な片目が、柚霧の顔色を見るように向けられている。
そこにはただただ遊びに興じる、誰より子供らしいテンジの姿はなかった。
呼吸一つにも緊張が走れば、不意に数本しかない歯を見せてテンジが笑う。
「ん! ほたるっ」
「わ…っ」
「ほたる、てんじ。なかよし、するっ」
「仲良し?」
「なかよし!」
にぱりと笑う顔は、もういつものテンジだ。
歪で顔とも取れないものなのに、不思議と笑う表情は感じ取れた。
無邪気な、害のない好意。
だからこそと願う。
「…あのね、テンジ。その仲良し、私以外にもできないかな?」
「いが、い?」
「私じゃない、人と。仲良しをするってこと」
「…どーま、きらい」
「ああ、うん。童磨じゃなくてもいいの。与助とだって仲良くなんてしなくていい。…それ以外の人間なら」
杏寿郎、という名前は寸でで呑み込んだ。
あんなにも過敏に反応していたのだ、テンジの中で良い感情は持っていないかもしれない。
だからと言って、人間全てを受け付けない理由にはならない。
捜せばきっと、テンジも心を開ける相手が見つかるはずだ。