第7章 柱《参》✔
「食べたくても食べられない人もいるのに。餓死する人だっているのに。柱は人を守る存在じゃないの? 鬼は皆殺しだなんて繰り返す暇があれば、食べ物の大切さくらい学んだらどうなの」
日々の食事が摂れることに感謝するくらいには、私には貴重であり難いものだった。
鬼になってからは、そんな感覚は薄れていたけど。
それでもこの男の行為は許せなかった。
「…言いたいことはそれだけかァ?」
ひゅっと。頸を締め付けられるような、そんな寒気がした。
まずい。
そう直感した途端、視界は大きく引っくり返っていた。
ダンッ!
「ッ…!」
襟首を掴まれたのは、さっきと同じだった。
だけど力加減がさっきの比じゃない。
瞬く間にそのまま床に背中から倒され叩き付けられていた。
見えなかった。
けど気配は感じ取れた。
伊達にあれから何度も、杏寿郎の裏山で筋肉忍者と組手をしていない。
そのお陰で辛うじて受け身を取ることはできた。
背中は凄まじく痛かったけど。
見下ろしてくる血走った風柱の目が、一瞬更に見開く。
風柱の手首と腕を掴んで受け身を取った様を見られたからかもしれない。
でも今は、そんなことどうでもよかった。
まかり通らないことがあると実力行使に出る。
女は黙っていろとばかりに拳を振るわれる。
それは私が散々人間時に見てきた男達と、同じだった。
人を喰らえる、鬼のような男達と。
「まだ全然言い足りない。まともに言葉の一つも交さずに力でしか捩じ伏せられないなんて、それでも人間なの」
「…あ?」
「鬼だなんだと線引きするなら、自分も少しは人間らしくしたらどうなの。なんの為の耳と口なのそれはッ」
「っお、落ち着いて二人共…!」
外野で慌てる蜜璃ちゃんの声が聞こえるけど、今はごめん聞いていられない。
歯を食い縛って目の前の風柱を睨み上げた。
柱がなんたるかなんて知らない。
私の言うことも支離滅裂かもしれない。
それでも、これだけははっきりしてる。
「私は、あんたみたいな人間が大嫌いだ」