第7章 柱《参》✔
「抹茶以外なら食ってやる。だがテメェの作ったおはぎは要らねェ。鬼が作ったもんなんざ何が入ってるかわかりゃしねェ」
包んでいた竹皮の間から、ぼとぼとと餡と餅米が床に零れ落ちる。
唖然とその光景を見下ろしながら、思い出したのは何故か姉さんの顔だった。
『見て、蛍ちゃん。今日はおはぎが安く手に入ったから、買ってきちゃった』
『わあ! 四つもあるっ』
まだ姉さんが元気だった頃。
ほんの偶にだけれど、お菓子を買って帰って来てくれることがあった。
桜餅みたいなお菓子は食べたことがないけど、おはぎなら口にしたことがある。
私はつぶ餡派で、姉さんはこし餡派で、どっちがどう美味しいだとかそんな他愛ない話をしながら頬張っていたものだ。
嬉しかった。楽しかった。幸せだった。
きらきらと輝くような、あたたかい記憶だ。
…別に特別おはぎが大好物だった訳じゃない。
姉さんとのその記憶が、目の前の光景によって特別刺さった訳でもない。
それでも気が障った。
目の前の、この男の行動に。
「そんな…酷いこと言わないで、不死川さん。蛍ちゃんが変なものを入れていないのは私が見ていたわ」
「そんなもん関係ない。こいつが作ったもの食べんのが嫌な」
パシンッ
気付いたら動いていた。
無意識の行動に近かったから可能だったのか。私の掌は目の前の男の頬を叩いていた。
そんなに大きな衝動じゃなかったはずだ。
だけど一瞬、その場の空気が静まり返った。
「柱って、何様なの?」
勝手に口が動いていた。
「それとも人間だから偉いの? 鬼が作ったものを塵にできるくらい」
止めようとも思わなかった。
「ンだとテメェ…ッ」
「毒なんて入っていないし、そんなつもりで作ってきた訳でもないことは、わかってるはずなのに。この餅米も餡も、潰されなければ誰かのお腹を満たしてくれたかもしれないのに」
目の前の男から殺気が伝わる。
それでも退けなかった。