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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✔












 ──カシャン、


 世界が回る。
 右へ。左へ。


 ──カシャン、


 移ろうように揺れる記憶。
 右へ。左へ。


 ──カシャン、


 泣く。叫ぶ。怯える。恐怖する。
 右へ。左へ。


 ──カシャン、


 そうして落ちる命たちは、輝きを零して消えていく。
 右へ。左へ。


 ──カシャン、


 「ごめんなさい」
 「たすけて」
 「もうしないから」
 「おいていかないで」
 「いたいことしないで」
 「きらわないで」
 「だきしめて」
 「あいして」

 「ぼくを」
 「わたしを」


 ──カシャン、


 「…ッ」


 嗚呼、と声が零れ落ちる前に、震える吐息が涙を添えた。

 痛い。苦しい。
 冷たい。寒い。
 哀しい。暗い。
 熱い。怖い。

 断片的なものでも直接的に能に響く。

 知っている。
 その感覚は全て、柚霧も感じたことがあるものだ。

 体をぶたれる痛みも。
 心を踏み付けられる苦しみも。
 置いていかれる寂しさも。
 焦がれ求める愛しさも。

 全て。


(だからあの子は──…)


 暗い闇の中で一人。蹲る柚霧の腕に触れる、ひんやりとした冷たい手。


「ほたる」


 腕に。足に。肩に。胸に。頬に。
 幾つもの小さな掌が、縋るように触れていく。


「ほたる」「ほたる」「ほたる」「ほたる」


 無数の触手のような手は、先程群で襲い掛かってきた時と同じだ。
 それでも怖くはなかった。
 あの時も、柚霧を乱暴に扱う掌は一つもなかったのだから。


「ごめん、ね…ごめん…」


 頬に触れる手を握りしめて、頭を下げる。
 震える声は嗚咽を含み、歪む柚霧の瞳に雫を溢れさせた。

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