第26章 鬼を狩るもの✔
「ごめんなさい…」
「ほたる」「ごめん」「ちがう」
「ごめん…」
「ほたる」「いたい」「しない」「ちがう」
耳元で聞こえる声は、拙く否定し続ける。
優しくて悲しいその声に、そうだねと肯定することはできなかった。
気付けなかったからだ。
皆嫌いだと告げたその声が、意味していたことを。
「許せたりなんて、しないよね…」
皆嫌いだと、大人全てを否定していた訳ではない。
「忘れたりなんて、できるはずがないよね…」
蛍だけが特別だと言っていた訳ではない。
「皆」
テンジ一人だけではない。
この手の数だけの、命が在った。
この手の数だけの、心がここには在ったのだ。
"皆"嫌いだと告げていたのは、ここにいた子供達
"皆"の思いだったのだ。
小さな体に歪に刻まれていたのは、無数の魂。
一つ一つは小さくとも、より集まれば膨張し強さは増す。
歪で優しいこの世界は、彼らが造り出したものだった。
「ほたる」「なかないで」「いたい?」「いたい、ない」「しよう」
ぽたぽたと落ち続ける柚霧の涙を、冷たい手が優しく拭う。
「いたい、ない」「せかい」「いこう」
導くように誘う。
そこには悪意など一つもない。
現実世界と反転したような、この世界そのものがそうだった。
悪鬼などという名称とは程遠い、優しさと愛だけで出来ている術だ。
「ほたる」「いこう」「いっしょ」「ずっと」
迎え入れるように、掌が包み込んでくる。
まるで母の腹の中にいるかのような温もりと柔さに包まれた。
「さみしい」「ないよ」
嗚呼、と涙声の吐息が零れ落ちる。
冷たく小さな掌を握りしめたまま、抱えるように柚霧は抱きしめた。
優しい、優しい、鬼の子供達。
(否定なんて、できない)
純粋無垢なその心を、自分の思いで変えてしまうことなどできない。
それでは、彼らに死を下した大人達と同じになってしまうから。