第7章 柱《参》✔
「テメェもか冨岡ァ…どいつもこいつも腑抜けたこと言いやがって。鬼は皆殺しが常識だろうがァ!」
「なら他の鬼を狩ってくるといい。話の通じない相手に譲る義理はない」
「んだとォ…!?」
「ま、待ってっ落ち着いて…ッ」
二人の間に強い緊迫した空気が生まれる。
それだけならまだいい。
前方にはおっかない顔の不死川実弥、後方には冷徹な義勇さんと、その空気のど真ん中で爪先立ちさせられてるのは私な訳で。
ド直球で感じる殺気が怖い! 痛い!
ちょっと落ち着いて下さい…!
「何が落ち着けだ。大体なんで鬼が呼吸稽古なんて受けてやがる。人間の真似事なんざしても鬼は鬼だ! 勘違いしてんじゃねぇよ!」
「っ…」
勘違いなんて、してない。
自分が此処にいる人達と同等だなんて微塵も思ってない。
だから天元の罰則にも従って、会いたくもないこの風柱の所に足を運んだんだ。
自分の意志が尊重されなくて当たり前だとわかってる。
わかってるから…いちいちそんなこと言わないで欲しい。
「なんだその目はァ。殺る気なら相手になってやる」
ここで売り言葉に買い言葉をしても悪化するだけだ。
ぐっと言葉を呑み込んで、風呂敷を再度指差した。
「…私は、罰則に従っておはぎを届けに来ただけです。貰ってくれないと、帰れない」
狂気染みた笑顔で催促していた、不死川実弥の表情が変わる。
挑発できないとわかったんだろう。舌打ち混じりにでも、ようやく掴まれた襟を解放された。
私の襟を離したことによって、義勇さんの手も不死川実弥から離れる。
そうして大股でおっかな柱が向かったのは、置かれた風呂敷。
結び目を解けば大量のおはぎが姿を現す。
「あのねっあんこときなこは私が作ったの! ゴマ餡は冨岡さんがゴマを擦り潰してくれて、抹茶餡は蛍ちゃんが作ってくれたのよっ」
嬉々として説明する蜜璃ちゃんの言葉を流しながら、不死川実弥は一つのおはぎを手に取った。
鮮やかな鶯色(うぐいすいろ)の抹茶おはぎだ。
それを手に再びこっちへやって来るものだから何事かと身構える。
するとぴたりと私の前で足を止めて、手の中のおはぎを突き出した。
グシャッ
瞬く暇もなかった。
呆気なく、おはぎが握り潰されたことに。