第26章 鬼を狩るもの✔
カシャンと転がり落ちる。
右へ、左へ。
カシャンと転がり落ちる。
きらきらと輝く、宝石のような欠片たち。
カシャンと────
『またそれで遊んでるのかぃ』
きらきらと光る宝石のような欠片達。
暗い部屋の中で光を纏うそれは、少年に取って唯一の宝物だった。
肌見放さず持ち歩き、いつも熱心に見つめていた。
止めたのは、蔑むような冷たい声だ。
『全く。家の手伝いもまともにできないったらありゃしないのに、おまんま食う体と遊びに興じる図太さだけは一人前だね。情けないとは思わないのかぃ』
『……』
『なんだぃ、その目は。言いたいことがあるなら言ったらどうだ』
『…っ』
『ああ、そういや喋れないんだったねぇ。お前は』
身を縮ませるしかできない体に、覆い被さるような大きな影。
逆光で顔は見えない。
ただ見下ろしてくる二つの目は、塵を見るような冷え切ったものだった。
生まれ落ちた時から、己の体には音色が存在しなかった。
口を開いても、歪に並んだ数本の歯の隙間から、か細い息が零れ落ちるだけ。
それが夜風に鳴く隙間風のようで気持ち悪いのだと、忌み嫌われ遠ざけられた。
窪んだ目元は骨と皮の体には、常に影を落として二つの空洞のようにも見える。
そこから覗く淀んだ瞳が気に入らないのだと、目が合う度に唾を吐きかけられるように罵倒された。
栄養の足りないひょろく細い手足では、体力も続かずまともな家事一つもできやしない。
それでも日々押し付けられる仕事は後を絶たず、どんくさい、鈍間(のろま)だと袋叩きにされた。
生まれ落ちた時から"子供"としての役割は取り上げられ、与えられたのは下僕のような日々。
親である女は自分にとって、主であり絶対だった。
彼女こそが"世界"そのものだったのだ。