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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✔



 何も見えない。
 真っ暗な海の闇へと沈んでいくようだ。


(まさか…ッ影沼か!?)


 無一郎や千寿郎達が飲み込まれる様は、何度だって見てきた。
 しかし杏寿郎自身がその沼に踏み入れたことは一度もない。

 足場を失くし無重力の空間で浮くのは、なんとも不安定で覚束ない。
 体を鷲掴んでいた無数の触手は消え去っていたが、同じに柚霧も消えてしまった。

 自分は一体、何処にいるのか。





 ──カシャン、





 答えを見つけ出そうと思考を回す、その前に。
 幾度も耳にした、か細く儚い音を耳にした。


(あれは──…)


 カシャン、


 転がるように回る音。
 憶えはないのに、不思議と知っている気がした。

 怖くはない。
 恐ろしくもない。


 カシャン、


 ただただ、懐かしい心地がしたのだ。

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