第26章 鬼を狩るもの✔
「ほたる。うばう。きらい。みんな。きらい。うばう。おまえ。きらい。きらい、きらいきらきらきらいききらいいらきらいらきらいきららきらきらいッ」
壊れたレコードのように歪に繰り返し、拒絶する。
ぞわぞわと異様な空気を纏うテンジが其処にいた。
「テ、テン」
「きらいッ!!!」
柚霧の声さえ遮り、捲し立てたテンジの気が張り詰める。
強く糸を張ったような緊張感の中、ぞわりと走る悪寒を杏寿郎は肌に感じた。
藍色の地面にぽつぽつと光る星屑から、手のようなものが伸びている。
それは目で追える速さではなかった。
気付けば既に、柚霧とテンジを囲うようにして渦を巻いていたのだ。
「行かせんッ!!」
悪寒が強まる。
この世界の主はテンジだ。
その心が欲するものは、異様に執着している鬼の彼女のみ。
一度ならず二度までも連れ去られてなるものか。
日輪刀の柄を握る手に力を込めると、大きく踏み込み様に杏寿郎は技を放った。
〝弐ノ型──昇り炎天(のぼりえんてん)〟
炎の渦を縦に巻き起こした斬撃が、柚霧から切り離すようにテンジを叩く。
「ッぎゃぁああアあァあアアあアアア!!!!!」
まるで地獄の断末魔だった。
つんざくような悲鳴を上げて、テンジの周りを渦巻いていた触手が荒ぶり波を起こす。
幾重も重なり太い太い一つの腕のような形を成して、それは波打ち天を仰いだ。
かと思えば、向きを真下へと変える。
「──ぁ」
其処にいたのは、片足の為に動くことができずにいる柚霧だった。
唖然と見上げる柚霧の目に、わらわらと無数の触手の掌が覆うように影を差す。
「ッさせるか…!」
「杏寿郎さ…っ!?」
「息を止めろ柚霧ッ!!」
柚霧の視界が掌で埋まるより一歩早く、杏寿郎が庇うように抱き込む。
余りの巨大な掌の面積の広さに、回避するだけの余裕はなかった。
しかし退く気もない。
ようやく見つけ出した。
ようやく触れることができたのだ。
今度こそ見失う訳にはいかないと、強く目の前の体を抱き締める。
群を成した触手の雨が、二人を潰す勢いで地響きを立てて降り注いだ。