第26章 鬼を狩るもの✔
「ほたる…! うで、いたい…っいたい…!」
「すぐに止血する! だが至急そこまでしかしてやれない! あの鬼を滅するのが先だ!!」
「ぁ…ぃ、痛…」
「すまん、今は痛みに耐えてくれ…!」
片足と片腕を失った体は、慣れない体幹に立つことなどできなかった。
その場に蛍を座らせると、手早く己の後頭部の髪をまとめていた紐を解く。
蛍の傍らで騒ぐテンジにも目を向けず、杏寿郎はすぐさま切断した腕の上で強く紐を縛り付けた。
「っ」
「痛いか。愚問だな、すまないっ」
ぎ、と肌が軋む程に強く縛り上げられて、蛍が反射的に唇を噛む。
真っ赤に染まる腕の断面を観察するように観ている杏寿郎の顔は、歪み切ったままだ。
血液一つ、垂れ落ちる度に。
痛みを伴うかのように。
「ぃ…痛く、ない…です…」
そんな杏寿郎の顔から目を逸らせないまま、蛍は辿々しく応えた。
痩せ我慢などではない。
本当に、痛みはない。
「! そうか、この世界は…」
テンジが創造したこの世界では、住まう者達の痛みを取り除く。
与助の言葉を思い出し、身をもって実感していた杏寿郎は、途端に長い安堵の息をついた。
「そうか…痛みはないか……よかった…」
その額に滲む汗は、極度の緊張感からか。
あんなにも童磨に激しい斬撃を浴びせていた時は、汗の一つも見せていなかったというのに。
(なんで…こんなに、必死になって…)
くれるのだろうか。
わからない。
わからないからこそ、知りたいと思った。
童磨が"鬼狩り"と呼ぶ、この男のことを。
「だが痛みはないにしても、君を斬ってしまったことには変わりない…すまない、こんな方法でしかあの鬼と切り離す策が思いつかなかった」
蛍の血に染まった手元で、強く紐を結び合わせる。
外れないことを確認しながら語る杏寿郎の目は、俯くように失くした腕を見つめていた。
一度だけ合った目は、もう合わない。
その目をもう一度正面から見たくて。
安堵の時に見せた僅かな笑みを、もっときちんと確かめたくて。
唯一残された片手を地に着いて、蛍は身を乗り出した。