第26章 鬼を狩るもの✔
己にも童磨にも殺伐とした空気を放つ杏寿郎から、蛍もまた目を離せないでいた。
激しい技の攻防時は必死に童磨に縋り付くだけで精一杯だったが、交わす言葉に耳を傾けられた今は疑問が浮かぶ。
(…大切なもの…?)
話の流れからすれば、杏寿郎が童磨に激しい怒りを生んでいるのも、己を卑下しているのも、蛍という存在が関わっているからだ。
そしてその名を持つ者を、最も大切だと言った。
守るべきものだと。
何度聞いても違和感しか残らないが、もしその名が本当に自分の名だとしたら。
握るべき手の持ち主は、本当に童磨なのだろうか。
(私…ここにいていいの?)
例え童磨が本当に自分を守ろうと傍に置いてくれていたとしても、これでは足手纏いにしかならないのではなかろうか。
迷う心が、縋る腕の力を緩める。
一歩、後退るように離れようとした。
「おっと。駄目だよ、蛍ちゃん」
それを止めたのは、腰を抱く童磨の腕だ。
強く蛍を己の体に密着させて、にこりと笑いかける。
「俺の傍を離れないでおくれ、と言ったよね」
「で…でも、私、足手纏いなんじゃ…」
「そんなことはないよ。蛍ちゃんが傍にいてくれるから、俺は安心できるんだ。それに──」
ちり、と白橡色の髪の毛先が熱に震える。
ひらりと頸を倒した童磨の顔があった場所に、熱風と共に貫かれる赤い刃。
的を外した刃はくんっとしなると、薙ぎ払うように童磨の頸を狙う。
ガガガガガッ!!
貫き、薙ぎ払い、反り上げ、切り裂く。
目にも止まらぬ速さで連打される杏寿郎の斬撃に、童磨の扇が防御に徹する。
「俺の傍を離れたら、細切れになってしまうよ」
「っ…!」
息をすることさえ困難な程、目まぐるしく駆け抜ける斬撃に蛍は身を竦ませた。
肌に触れてもいないのに、首筋に熱い刃を添えられているようだ。
「余所見すんなよォ」
その影は、童磨の視界にすら入っていなかった。
低い声を耳が拾った時には、下から捩じり上がるような風の斬撃が童磨の腕を断ち切っていた。
〝陸ノ型──黒風烟嵐(こくふうえんらん)〟
実弥が狙ったのは、童磨の腕だけではない。
腕諸共斬り飛ばした扇が、遠く後方へと落ちる。