第26章 鬼を狩るもの✔
(やっぱり。力も速さも申し分ないけど、蛍ちゃんが視界にあれば全てを出し切ることはない)
蓮の氷を砕いた時のような、広範囲の呼吸技を童磨に向けては使えないだろう。
体をまとめて吹き飛ばされなければ、腕や足を切断されようが代えは利く。
つまり蛍は、杏寿郎の見えない抑制となっているのだ。
「蛍ちゃんは動かないでいておくれ。そうすれば"当たる"ことはない」
ひらりと扇を払う。
吹き出す氷の霧が、杏寿郎目掛けて吹き出した。
「同じ手は喰わんッ!」
触れられはしないが、薙ぎ払えばいいだけのこと。
大きく縦に振り被った杏寿郎の日輪刀から、炎の塊が放出される。
〝参ノ型──気炎万象(きえんばんしょう)〟
炎の塊は一瞬にして霧を蒸発させ消し去る。
できた道に間合いを詰めた杏寿郎が、童磨の頸目掛けて刃を振るった。
「まだまだ♪」
〝血鬼術──枯園垂り(かれそのしづり)〟
片手一本で舞うようにうねる童磨の扇から、氷の斬撃が繰り出される。
幾重も重なる互いの斬撃は、衝突し合うと力を相殺させた。
「…ッ」
次なる技を繰り出そうとする杏寿郎の視界に、耐えるように強く目を瞑り童磨にしがみ付く蛍の姿が映る。
ギリ、と刃を食い縛り杏寿郎は顔を歪ませた。
蛍を避けて刃を振るう腕はあるが、万が一技が当たってしまったらという不安は付き纏う。
鬼が人間を人質に取る場面は幾度もあった。
その度に鬼の頸だけを斬首してきたが、蛍は人間ではない。
斬首してきた鬼と同じ生き物なのだ。
更に相手しているのは、力の加減ができない上弦の鬼。
もし道筋が僅かでも誤り、渾身の技が蛍へと牙を剥けば、その命は簡単に散ってしまう。
「ッ蛍を巻き込むのはよせ!!」
「へえ。それを君が言うのかい?」
正論を吐き捨てれば、即座に返される。
童磨の顔には緩やかな笑みが浮かんだままだ。
「俺は俺なりに蛍ちゃんを守っているんだよ。口を出さないで欲しいな」
「それのどこが守っているなどと…!」
「少なくとも君よりは」
弾け合う刃と刃。
斬撃のみで対峙する二人の表情は対照的だった。