第26章 鬼を狩るもの✔
「…あれ」
切断されて血に落ちた腕を他人事のように見つめながら、背後でずずんと沈む巨大な蓮の氷を感じ取る。
(急に力と速さが増幅した。一度目は、まだ本気を出していなかったのか?)
冷静に思考を回す童磨の腕の断面図が、もこりと浮き上がる。
途端に蜥蜴の尻尾のようにずるりと生えた腕が、何事もなかったかのように血を振り払った。
(…いいや、そういう訳じゃあないみたいだ)
目の前の男から感じる威圧は、先程とは比べ物にならない。
静かながら、ちりちりと肌を焼け焦がすような殺気だ。
「ふぅん。面白い」
落とした扇を拾い上げ、童磨の口角が深く上がる。
杏寿郎のタガを外させたのは、まず間違いなく蛍の存在だ。
「童磨…ぅ、腕…」
「うん? ああ、大丈夫だよ。もう痛くも痒くもないからね。これでわかっただろう? 蛍ちゃんの足もそのうちに生えてくるよ」
「そ、んな…」
「それより蛍ちゃんは、こっち」
「え?」
顔を青褪めて新しく生えた腕を凝視する蛍に、にっこりと笑いかける。
かと思えば、童磨は片手で蛍の腰を抱いたまま己の体に強く引き寄せた。
「離れていたら、別の鬼狩りに狩られる心配もある。俺の傍にいておくれ」
「で、でも…テンジが」
「ああ、その子は蛍ちゃんが大好きみたいだからなあ。仕方ない、見ていてあげなよ」
蛍は幼い見た目のテンジを心配をしているのだろう。
しっかりと蛍の背中に抱き付いたまま離れない少年は、まるで取り憑く小さな妖怪だ。
「俺はその子の面倒までは見きれないから──ね」
ガキンッ!
二度目の衝突は、ゆるりと笑いかける童磨の左手が塞いだ。
日輪刀を受け止めた扇が、しゃりんと開く。
「蛍を放せ」
真上から斬りかかる杏寿郎の双眸が、ぎょろりと童磨を貫く。
「それは土台無理な話だなあ」
再び熱風が童磨を襲う前に、開いた扇から冷気が広がる。
美しい粉雪のような霧を噴射しているが、それに触れれば細胞はたちまちに凍ってしまう。
杏寿郎が飛び退き距離を取れば、童磨は成程とほくそ笑んだ。