第26章 鬼を狩るもの✔
「鬼の出る時間に外を出歩いていたから、あの子の世界に捕まった。あの子の世界に捕まったから、生きる価値もない男に利用された。男に利用されたから、体を張って心も傷付けた。そして自分自身も忘れて此処にいる。…そもそも体を焼かれ家を追い出されたりしていなければ、蛍ちゃんは此処にこうして立っていない」
元を辿れば、結局行き着くのはそこだと。淡々と丁寧に説明を施す童磨に、実弥の吠える口が止まる。
単なるこじつけだと一蹴することもできた。
しかしそれを言えるのは自分ではない。
唇を強く結んだまま、歪む顔で蛍を見ている杏寿郎だ。
「鬼である蛍ちゃんと生きたいと願うにしては、聊か覚悟が足りていないんじゃないかなあ。いつも君は肝心な時に蛍ちゃんを救えていないじゃあないか」
「…なんだと」
ようやく杏寿郎が口を開いたのは、同情するように告げる童磨の指摘に対してだった。
普段の彼からは想像もつかない、低い声が絞り出る。
「俺が花街で蛍ちゃんと出会った時、君は何をしていた? おぼこに扮した少年ばかり気にしていただろう」
(! こいつ知っていて…ッ)
確かにあの時、任務の為に女装した千寿郎を守ることで頭は埋まっていた。
童磨はあの場所で、鬼殺隊の存在に気付いていたのだ。
その中で敢えて蛍だけに声をかけたのだとしたら、最初から目的は蛍のみにあったことになる。
意図的に近付いて、故意に蛍を攫ったのだ。
「蛍ちゃんと大人しくするって約束したから、あの場では見逃したけど。まさかここに繋がりが合ったなんて…いやはや、世界は狭い」
「花街、って…」
「ん? ああ。俺と蛍ちゃんが二度目の再会を果たした場所だよ。そこで結ばれたんだ」
「結…?」
「うん。俺と、蛍ちゃんが愛し合った場所」
「え…っ」
問う蛍に、応える童磨の笑みが尚深くなる。
言葉の意味を理解した蛍の頬が、じわりと赤く染まる。
そしてその理解は、蛍だけではなかった。
(結ばれ…た…?)
言葉を失った、杏寿郎もまた。