第26章 鬼を狩るもの✔
果てしなく続く海のように、凹凸のない地平線。
そこにぽつんと一つ、突起物のようなものを見つけた。
其処に捜していたものがあると直感した杏寿郎は、視界に捉えた時から目を逸らさず走り続けた。
やがてはっきりと目視できたのは、氷で出来た蓮の花のようなもの。
家一つ分はあろうかと思われる巨大な開いた花弁の上に、人影はあった。
「やあやあ。知らないうちに見ない顔が増えてるなあ。その傷の男は、君と同じ鬼狩りかい?」
ゆらりと花弁の上に立つ童磨に話しかけられようとも、杏寿郎の目は斬るべき鬼へと向かなかった。
双眸を見開き、食い入るように見ているのは、童磨の傍らに座る一人の女性。
どくりと鼓動が脈打つ。
「……ほたる…」
髪を下ろし、見慣れない西洋の服装をしているが、見間違うはずもない。
「蛍……!!」
彼女こそ探し続けていた存在だ。
「蛍ちゃん、手を」
「は…はい」
しかし突然の杏寿郎の呼びかけに、蛍は身を竦ませるばかりで応えようとしない。
それどころか童磨が手を差し伸べると、当然のように握り返したのだ。
優しく支える童磨に助けられ、ふらつく体で立ち上がる蛍には片足がなかった。
一体何があったのか。疑問を抱く前に、傷口を覆う氷に杏寿郎の頭にカッと血が上る。
「貴様、蛍に何をした…ッ!」
「そんなに怒鳴らないでおくれよ。彼女が怖がるだろう? ほら、見てごらん蛍ちゃん。彼がさっき話した鬼狩りだ」
「おにがり…」
「真っ当なことを口にするけれど、それは全て人間の為だけだ。俺達鬼のことなんか虫けら程度にしか考えていない、非道な連中さ」
「質問に答えろ!! 蛍の体に何をしたッ!!!」
「煩いなあ…これは蛍ちゃんの怪我が悪化しないように、止血と縫合の代わりをさせているんだよ。鬼だからそういう心配もないだろうけど、念のために、ね。ああ、痛みはこの世界が取り除いてくれているようだけど」
激しい杏寿郎の怒号に、肩を竦めて仕方無しにと説明する童磨は焦りも緊張もない。