第26章 鬼を狩るもの✔
「でも、私達より、小さな体をしてます。言葉だって、私達より拙い。守ってあげないと」
「ほたる…はは、すき」
「私は、お母さんじゃないよ…」
力のない声色だが、戸惑いながらも意志を通すところは、以前の蛍を思い起こさせるようだった。
むぎゅりと強く抱き付いてくるテンジに、蛍は静かに狼狽えながら頸を振る。
そんな二人の姿を見ながら、童磨は腕組みをして頸を捻った。
「蛍ちゃんがお母さんかあ……じゃあ俺がお父さん、やりたいな」
「そ…そういう問題じゃないかと…」
「なんでだい? 蛍ちゃんは、その子を守るんだろう? 親代わりに。俺は蛍ちゃんを守りたい。だったらもう一つの家族みたいなものじゃないか」
「そう…ですか?」
「そうそう」
にっこりと笑顔で童磨が肯定すれば、静かに狼狽えていた蛍の顔が下がる。
先程と同じくほんのりと耳を赤く染めたまま、俯く姿は照れているようだ。
「(嗚呼、本当に)…蛍ちゃんを早く連れて帰りたいよ」
深く笑みを浮かべたまま、童磨は憂いを残すような溜息をついた。
このどうしようもなくコントロールできない感情で満たしてくれる彼女を、誰の手にも渡らない所に連れ去りたい。
自分しか見えない部屋で、丁寧に、丹念に、余すことなく愛してあげるのだ。
「帰ったら蛍ちゃんが二度と忘れられないくらい、たくさん愛してあげるからね」
「…っ」
「ふふ。想像しちゃったかな? 俺も腹が鳴ってしまいそうだ」
ぐるぐる、ぐるぐる。
腹の底が鳴るようだ。
稀血の中でも更に希少な人間を前にした時のような、どうしようもない食欲が脳髄を刺激してくる。
尚の事恥じらい俯く蛍の頬を、そっと指の甲で撫で上げる。
「でもその為には、後始末をきちんとしておかないと。ねえ」
ふ、と息を零して目を逸らす。
ゆらりと頸を捻り振り返った童磨は、全てを見通すように嗤(わら)った。
「君のような邪魔者はさ」
緩やかに笑う童磨の視線の先──其処に、息を切らして辿り着いた男がいた。
炎を纏うような、鬼狩りの男だ。