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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✔



 体を蹂躙されながらも、己の意志を見失わなかった瞳が気に入っていた。
 大袈裟に被害者ぶるのではなく、程好い温度で感情を処理できるところも好ましい。

 弱いのに強くて、強いのに弱い。
 固い意思を持ちながら、揺らぐ瞳も見せる。
 そんな一つの感情では言い表せない、蛍の複雑な内面が好きだった。


(そうだ。だったら"そう"造ればいいんだ)


 まるで頭上を覆う雲が晴れていくかのような心地だった。

 あの焦がれた蛍の姿を思い起こして、そう成るように育てればいい。
 ただしあの頃の蛍よりも、幾分今のような初々しさと従順さを残しておきたい。
 他の誰にも見せずとも、自分にだけは心と身体を余すことなく明け渡すように。


(失敗しても、またやり直せばいいんだし)


 蛍は鬼だ。代えが利く。
 自分の思い通りに育たなければ、また一からやり直せばいい。
 それでも上手くいかなければ、テンジに少しずつ記憶を引き出させるのも手だ。
 記憶の引き出しの開閉を上手く操って、理想の自分だけの"彩千代蛍"を創り出せばいいのだ。


「っ…?」


 爛々と光る虹色の瞳に見つめられ、蛍は身を震わせた。
 背中を童磨の操る冷気が撫でていくかのようだ。


「可愛いなあ。口吸いなんて、ただの皮膚の触れ合いだというのに」


 うなじを包む童磨の長い指先が、首筋を撫で上げる。
 ぴくりと震えるだけで逃げ出せない蛍の耳に、今度はゆっくりと唇を寄せた。


「それ以上のことを俺達はたくさんシただろう?」


 優しく吹き込むように囁けば、じわりと小さな耳が赤らむ。

 嗚呼、と口角が緩まずにはいられない。
 自分の些細な言動一つで、こうも振り回される彼女を見ているのはなんという快感なのだろう。


「おや。思い出したかな? 蛍ちゃんの鳴き声、すごく艶やかで透き通るイイ声だった。また聞きたいなあ」

「っわ…私は、知らない…です」

「大丈夫。知らないなら、また一から憶えていけばいい」


 貝殻のような愛らしい耳を、すりすりと指先で擦り撫でる。
 目線を逸らし頑なに合わせようとしないものの、その度にぴくりと反応を見せる蛍が、堪らなく愛おしい。

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