第26章 鬼を狩るもの✓
「ほら、あーん」
「嫌です…ッ」
「なんだなんだ、抵抗するのかい? 可愛いなあ。でもそれじゃあ逆効果かな」
空いた手で摘まんだルビーのような結晶──血の塊を口元へ差し出すも、強く唇を結んだ蛍は顔を背けて拒絶する。
そんな姿も微笑ましいものだと笑顔を絶やさないまま、ぺろりと童磨は赤い舌で己の唇を舐め上げた。
「また胃に直接押し込まれたいと言うなら、何度でも与えてやろう」
「ッ!?」
押し返す蛍の力は鬼としても弱い。
易々と距離を縮めた童磨の唇が、ちゅ、と強く結んだ柔らかな唇に触れた。
予想外の出来事だったのか。驚き固まる蛍から拒絶の力が止まる。
「蛍ちゃんってなんでこう、俺の腹の底をくすぐるようなこと──…蛍ちゃん?」
「…ぁ」
唖然と童磨を見ていた目線が、下がる。
はた、と思い出したように唇に手を当てると、動揺を隠しきれない頬が赤く染まった。
「ぃ…今、」
「まさか…口吸い一つで、照れちゃった?」
「っ」
ぽかんと頸を傾げる童磨の指摘は図星だったのか。更に赤く染まる顔を隠すように俯く蛍に、途端に虹色の瞳が輝いた。
(うわあ…うわあ)
本来の蛍なら一度だって見せなかった反応だ。
慣れているようで、それでも体を暴かれることには抵抗があって。そんな蛍だから興味を持ったというのに。
今目の前で生娘のように恥じらう蛍もまた、童磨の胸の内側を熱くさせた。
(いつもの蛍ちゃんが一番だけど、こんな蛍ちゃんもいいなあ。鬼の知識だけじゃなく、こっちの方もこんなに初々しいなんて。何もかも俺の好きに染められるじゃないか)
このまま蛍が記憶を失くしたままでも童磨には都合がよかった。
心を寄せているあの鬼狩りの男から引き離すことができるし、運よく行けば鬼側の勢力として取り込むことができる。
それでもほんの少しの寂しさはあって、いつかはテンジに記憶を戻させようという思いは頭の隅に残っていた。
その思考が、塗り潰されるようだ。