第26章 鬼を狩るもの✓
「…鬼…?」
「そうだよ。俺も、蛍ちゃんも、あの子もね。俺達は傷付くことも、老いることもない。悠久の時を生きられる存在なんだ。だからその足もいずれは治る」
「……」
「どうかな。これで少しは安心できたかい?」
「…信じられ、ません…」
「うーん」
言葉で説明しただけでは、鬼の存在を知らない頭に納得させるのは難しい。
足を失くしたショックは落ち着いたものの、弱々しく頸を横に振る蛍に童磨は困ったように頭を捻った。
「どうしたものか…あ。そうだ」
はてさて、と思い悩んでいた顔が不意に止まる。
ぽんと手を叩き懐から取り出したのは、小さなコルク栓の小瓶。
「百聞は一見に如かず。聞くより見る。見るより体験した方が早い。蛍ちゃんが鬼だって証拠を感じさせてあげよう」
「?…それは…」
「俺達鬼にとってなくてはならない糧の一つさ」
きゅぽん、とコルク栓を引き抜く。
そんな些細な音に、びくりと蛍は体を震わせた。
何故かわからないが、目の前の小瓶から目が逸らせない。
なのに目を背けたくなる衝動に駆られる。
「今回は実感だけだから強い稀血は控えておこう。それでもこれも、とっても甘くて美味しいからね」
「っ…」
ころりと、受け皿にした童磨の掌に落ちてくる小さなルビーのような結晶。
それを目にした途端、蛍は引け腰に頸を振った。
「ぃゃ…」
「蛍ちゃん?」
「それは、嫌」
「え、どうしたのかな」
「要らない…っ」
胡坐を掻いて座る童磨の膝の中で抱き込まれている為、片足では抜け出すことはできなかったが、それでも蛍は童磨の胸に両手を当てて拒絶を示した。
「あ。記憶がないから怖いんだね? 大丈夫。俺が手取り足取り教えてあげるから」
「嫌…ッ」
「好き嫌いはいけないなあ。腹を満たせば、その足も速く完治するのに」
仰け反る蛍のうなじを、やんわりと包むようにして童磨の手が掴む。
優しい手付きだが、有無を言わさない力があった。