第26章 鬼を狩るもの✓
(一度目に比べて速度は遅いようだが、俺達を狙っている訳ではないのか?)
近くに童磨がいるのかと思っていたが、一度目の冷気のような速度と正確さはない。
放射線状にじわじわと広がっていく様は、まるでこの世界を全て氷漬けにしていくかのように思えた。
「き、杏寿郎様…ッ!」
「!」
背を向けて駆ける杏寿郎に抱かれていた八重美は、その背後がよく見えていた。
呼びかける彼女に応えて、振り返る。
そこで杏寿郎は目を見張った。
「不死川!」
「ァあ!? なん──…だァ?」
「…止まった」
同じく目を見張った実弥が足を止める。
目で追える速度で氷を張らせていた地面が、その変化を止めたのだ。
しん、と静まり返る空間に、氷の音は響かない。
最初に動いたのは杏寿郎だった。
用心深く歩み寄り、日輪刀の鞘の先でこつん、と氷の地面に触れてみる。
まるで湖を凍らせたかのように、水平で綺麗な氷の膜を張っている。
それだけで、鞘にも目の前の杏寿郎にも冷気は噛み付いてこない。
それどころか蒸発するかのように徐々に消え始めたのだ。
「なんだァ? 術を解きやがったのか?」
「かもしれないな…何か目的があって放っていた術を止めたということは…」
目的を逃したのか。
はたまた目的は達せられたのか。
後者に妙な身震いがした。
童磨は鬼ごっこと称して蛍を捜していたのだ。
(もしや──)
その先の答えに辿り着く前に、杏寿郎は無理矢理に思考を切り替えた。
「追うぞ不死川! 恐らくあの先に上弦がいる!」
「ハッ! ようやく会えんのかよ…!」
「速度を上げます。八重美さんは掴まっていて下さい」
「わ…っ私は、」
「駄目です。俺と共に来て下さい。危険は重々承知していますが、此処に置いていけばまた失う恐れがある」
八重美の言葉は皆まで聞かず、杏寿郎は消えていく氷の膜を追いながら告げた。
見失う恐れだけではない。
また血鬼術の所為で八重美の記憶を失くしてしまえば、見失ったことさえ気付かずにこの世界に置き去りにしてしまうこともあり得る。
それだけは回避しなければならない。