第26章 鬼を狩るもの✓
「ふッふざけんな! そんなモン生きてるなんて言えるかよ…ッ!」
狼狽えながらも己の主張を突き通す。
自身の言葉に、与助ははっとした。
「そうだ。身体は機能していても、心は搾取され続けている。それが生きていると言えるのか。お前が、お前達が彼女にしたことは、それと同等のことだ」
「ぅぐ…ッ」
ぎり、と与助の胸倉を掴む杏寿郎の手に力が入る。
初めて、感情を見せなかった表情が崩れた。
「何故自分がその窮地に追いやられるまで気付けない…ッ何故長年その姿を目の当たりにしていながら、少しでも彼女の負った傷に目を向けなかった…! 鬼となり永遠に生きるということは、永遠に罪を背負うということだ!! お前にその苦しみがわかるかッ!!!」
今まで敢えて堰き止めていたのでは。と思える程に、肌を、心を突き破るような杏寿郎の怒号が与助を覆う。
「本当に保身の為に目を逸らし続けていたなら、今この場でそんな言葉は出てこないはずだ。結局貴様も、蛍を殺めた男達と同じだ。そこに罪悪感など一欠片も持っていない」
「な…にを、根拠に…オレのことなんざ、知らねぇだろ…」
「ああ、知らない。だが蛍と柚霧のことは知っている。見縊(みくび)るなよ。お前の今までの挙動を見ていれば、鬼や蛍に対してどういう感情を抱いているかくらいわかる」
深く呼吸を繋ぎ、声を静める。
それでも止められない殺気が肌を滲み溢れ、目の前の与助を牽制した。
「お前が鬼なら斬首していた。だが人間だ。俺や鬼の手で殺める訳にはいかない。人の法の下で、お前は裁く」
「は……は、は…んで、オレなんだ…それならあの花街には禁忌を犯してる奴なんて他にも」
「だからなんだ」
「ひッ」
息を繋ぐ暇もない。
瞬く間にすぐ目の前に迫る杏寿郎の見開いた双眸だけが、与助を喰らうように見ている。
「勘違いをするな、俺は聖人じゃない。俺の大切なものにお前は消えない傷跡を作った。だから俺も一生お前を許さない」