第26章 鬼を狩るもの✓
人の世は平等ではない。
それでも何故、そこまで彼女達は突き落とされなければならなかったのか。
何故鬼となった後で、蛍はようやく人らしい感情を持つこととならなければならなかったのか。
不条理という言葉だけでは物足りない。
本当にこの世に神や仏がいるのなら、何故そこまでの仕打ちをしたのだと問い質したい程だ。
「確かに菊葉はもう戻らねぇが…柚霧は違うだろ。まだ生きている。それも前より良い暮らしをしてるみたいじゃあねぇか。もうあいつは搾取されていな"ッ」
乾いた笑みを浮かべて告げようとした与助の言葉は、最後まで形を成さなかった。
無造作に与助の胸倉を掴んだ杏寿郎が、強い力で引き上げたのだ。
「ぅう、ぐ…ッだ、旦那…っ?」
「搾取されていない? お前がそれを語るのか」
生きながらに地獄を歩いている彼女の命は、自由などではない。
人間に殺されたあの日から、姉を喰らったあの夜から、〝鬼〟というものに捕らわれてしまった。
「鬼と成った後、蛍がどんな生き方をしてきたのか。その道を強いたお前が語るな」
「ひ…ッま、待てよ旦那悪かった…! だがオレぁ決して悪いことだとは思っちゃいねぇ! そりゃ人じゃなくなったが…っ永遠に若いまま生きられるんだろ? 鬼ってやつは」
爪先立ちになりながら、慌てた与助が両手を上げて必死の弁解を図る。
「怪我だって一瞬で治っちまう。病(やまい)ともオサラバだ! 現に柚霧は死にかけたなんて思えないくらい健康な姿になってるじゃねぇか! あいつの顔、目も当てられねぇくらいぐちゃぐちゃだったってのに…っ今じゃ綺麗さっぱりだ!」
これ以上ないという程開いていた杏寿郎の双眸が、びきりと尚も見開いた。
「それもこれも鬼の力のお陰だろッ!?」
──ボキンッ
聞き慣れない、嫌な音がした。
何処からそんな音がしたのか。与助にはわからなかったが、視界に不自然なものを見つけることはできた。
「…え?」
腕だ。
凡そ曲がるはずのない方向に捻じ曲げられた己の腕が、ぐんにゃりと不格好に垂れている。