第26章 鬼を狩るもの✓
現実世界から蛍の片鱗を見つけた時、その傍に奇妙な魑魅魍魎とした小鬼達がいた。
それが与助の言う"テンジ"なのだろうか。
「情報は気になるところだが、今は時間がない。そもそもこの世界から抜け出す為には、そのテンジという鬼を斬る必要がある」
結局のところ取る道は変わらない。
蛍を攫い、己の目から隠した者こそテンジなのだ。
「斬らなくてもオレが命じればテンジは言うことを聞く。オレを連れていってくれれば、皆この世界から抜け出すことができるはずだ…っ」
だから自分を連れていけと主張する与助に、ようやく杏寿郎の足先が向いた。
振り返り、真正面から与助と向き合う。
「鬼が人の言うことを聞く様など見たことがない。初耳だ」
「会わせてみりゃあわかる。あいつは鬼だが、所詮ただの親を恋しがる子供よ。オレがあいつの父親代わりをしていたから、オレの命令は絶対なんだ」
「…鬼は化け物だと言っていただろう。人を喰らうことを知っていながら、親の代わりをしていたのか?」
「そりゃあ最初見た時は吃驚したさ。直視できねぇくらいに醜い、本物の化け物だった」
与助がテンジを拾ったのは、偶然の産物だった。
日光と人目を嫌うように路地裏に蹲っていた、浮浪児のようなテンジを見つけたのが、始まり。
この世に生まれ落ちるはずではなかった、手違いで誕生したような異形の姿をしていた。
大半の人間なら関わらずに避けるところ。与助も気味悪がったものの、すぐに見世物小屋に売れるのではと思い直した。
既にその時から、女の身売りで生活を繋いでいたのだ。
利用できるものならなんだって利用して金に変えた。
故に嘘の仮面で取り繕い、テンジに近付いた。
結果、少年は人ではなく鬼という化け物であったことを知ったのだ。
「懐いちまえば従順なところもある。…そうだ! 理由は知らねぇが、あいつは血が苦手みたいなんだ。見せるといつも怖がるから、それで言うことを聞かせてた」
「血を怖がる鬼…?」
そんな鬼、聞いたことなどない。
与助の語る話の内容は信じ難いものばかりだったが、この世界を杏寿郎よりも知っているのは確かだった。