第26章 鬼を狩るもの✓
「いデッ!」
高い位置から落ちた尻が、地面に強打する。
「いてて…ンな雑な下ろし方よしとくれよ旦那…」
「煉獄だ」
「へ?」
「煉獄杏寿郎。それが俺の名だ。媚を売るような呼び方はやめてくれ」
「へえ、立派な名前をお持ちで。なら煉獄の旦那だ。さっきは助けてくれてありがとうございやした。いや本当に、助かった」
態度を変えない与助に眉を顰めるものの、それ以上何かを言う気にはなれず。早々と杏寿郎は与助から背を向けた。
向かうは童磨の所だ。
「っ何処へ?」
「此処には身を隠すものがほとんどない。距離を保つことでしか身の安全は確保できない。あの鬼に近付かないよう、気を付けることだ」
「こ…こんな世界でオレを一人にしないでくれッ旦那なら知ってるだろ? 鬼は人間を喰う化け物だ。オレなんかいつ喰われるか…っ」
慌てて炎の羽織を縋るように掴む与助に、杏寿郎の足が止まる。
ただ一度も振り返ることなく、背中だけが与助の狼狽える様を見ていた。
「…その心配には及ばないのではないか」
「へぇ? なんで…」
「本当に喰われる運命ならば、今こうして此処で生きているはずもない。上弦の鬼と二人きりでいて無事だったんだ。今更一人になったところで問題ないだろう」
「っ…そうだ、柚霧!」
ぴたりと、杏寿郎の唇が動きを止める。
「柚霧が守ってくれたんだよ…ッさっき童磨って奴がオレを殺そうとした時、手を出すなって。そう言ってくれてっ」
「その彼女は何処にいる」
初めて、杏寿郎の双眸が与助を映した。
振り返り問う男の顔は、無表情でありながら肌を震わすような圧を滲ませている。
「そ…っれが、テンジが攫(さら)っていっちまって…」
「テンジ?」
「この世界を創ってるガキの鬼だ。ここはあいつのドでかい遊び場みたいなモンなんだよ。柚霧を攫ったのも、鬼ごっこを始めるってんで童磨から逃げる為に…」
気圧されながらも説明する与助の言葉の端々は、童磨の口からも似たような話が出ていた。
嘘ではないのだろう。