第7章 柱《参》✔
黒光りする様は、一瞬あの"ゴ"で始まる虫かと思ったけど全く違った。
思わずまじまじと硝子箱の中を覗いてしまう。
やっぱりどれもカブト虫だ。
「凄い数…これだけの飼育をするって、きっと大変よね」
蜜璃ちゃんの言う通りだけど、それ以上に別に疑問が湧く。
このカブト虫達を飼育しているのって…その…この屋敷の主しか思い当たらない訳で。
他の人間がいないようなら尚更。
まさか、あのおっかな柱が──
ガタッ
戸に何かがぶつかる音がした。
驚いて振り返ると、血走ってかっ開いた目と合った。
顔に走らせた大きな傷。
鋭く跳ねた癖の強い色素の薄い髪。
紛れもなく、あの不死川実弥だ。
それだけならまだいい。
戸にぶつかったのは多分それなんだろう。
不死川実弥の足元に転がっているのは、小さな桑。
片腕には麻袋を担いでいて、そこからはみ出している枯れ葉が見える。
何も訊かなくてもわかるしそもそも何も訊けない。
十中八九このカブト虫の山はこのおっかな柱の飼育物だ。
「……」
大変まずい状況に出くわしてしまった。
「不死川さん、こんにちは! 勝手に上がってごめんなさい。でも挨拶はしムッ」
「こんにちはお邪魔しましたさようなら!」
沈黙を破った蜜璃ちゃんの言葉を掌で物理的に塞いで、早口で別れを告げる。
ここで相手に突っ込ませたら駄目だ。
逃げるが勝ちとは正にこのこと。
風呂敷は置いたまま蜜璃ちゃんの手を掴んで、即刻部屋を飛び出した。
「待てやァ」
じゃなく飛び出そうとした。
止めたのは、ドンと私の前で床を踏んだ重い足踏み。
体が硬直する。
腹の底から捻り出したような低い声に、逃げ出せない。
いや、逃げ出せと頭の中は危険信号を送っているのに、体が言うことを利かない。
余りにも、その、目の前で放ってくるこの男の殺気が強過ぎて。
ゆらりと、俯いていた不死川実弥の顔が上がる。
「選べェ。俺に殴り殺されるか、斬り殺されるかァ」
いやどっちも殺されるしか道がないんだけど!
どっちもごめんです!!
「か、勝手に上がってごめんなさい何も見てません!」
「不死川はカブト虫が好きなのか…」
「義勇さんんん!?!!」
今一番言っちゃいけないことそれ!!!