第7章 柱《参》✔
ということは、この屋敷におっかな柱以外の人間はいないのかもしれない。
「不死川さーん! いないんですかー!?……もしかして長期任務でも入ったのかしら」
「不死川は今は野外任務には出ていないはずだ。何処か余所で鍛錬でもしているんじゃないのか」
何度も呼びかける蜜璃ちゃんに、やっぱり返事はない。
義勇さんの予想が合っていれば、あのおっかな柱は今此処にはいないということになる。
…ならば。
「じゃあおはぎを置いていくしかないよねお邪魔します!」
「あっ蛍ちゃん!」
そうとわかれば即行動。
あのおっかな柱がいない間に、おはぎを供えていこう。
鬼の居ぬ間になんとやら、だ。
鬼は私だけれど。
市女笠を抜いで、風呂敷を抱えたまま玄関を上がる。
流石に食べ物を廊下に置くのは忍びない。
適当に何処か机でも見つけて置いていくことにした。
「勝手に上がって大丈夫かしら…っ!?」
「上がる前に挨拶もしたし、おはぎを置いていくだけだから大丈夫だよ。悪いことじゃないでしょ?」
「そ、それもそうね」
「あっほら蜜璃ちゃん、あそこに戸がっ」
「玄関は開いていたんだ…もしや──」
とにかく早く罰則を済ませたくて、義勇さんの小さな呟きは聞き流してしまった。
風呂敷を抱えたままカラリと見つけた戸を開ける。
其処には目的としていた机──はなく。
目に飛び込んできたのは、大量の硝子の箱。
それが一定間隔で大量に積み上げられており、その中には……には?
「何、これ」
「これって…?」
「…土臭い」
思わず三人共に立ち止まって、部屋の異様さを凝視してしまう。
八畳程の部屋にあったのは、大量の硝子箱。
その中には、敷き詰められた土と枯れ葉と木々。
その間でうごめく黒光りする生き物がいた。
「あれって…」
細長い角。二本の触覚。ずんぐりとした丸く大きな図体に、昆虫独特の骨格と六本足。
子供の頃、誰もが一度は夢中になる昆虫が、その箱の中にいた。
その名は──
「カブト虫?」