第26章 鬼を狩るもの✓
「身体が元通りになるまで、俺が蛍ちゃんの手となり足となってあげる。誰にも傷付けさせはしないよ」
あやすように優しく告げる童磨に、反論する者はいない。
ただ唯一、きつく眉を寄せたテンジだけが腑に落ちない顔をしていた。
童磨の本性を知らずとも、蛍に何をしたのかは知っている。
だからこそ見過ごすことはできない。
何より蛍の名を奪ったのは自分だ。
満足な抵抗のできない状態にしてしまったのは、テンジ自身。
傍にいると約束してくれた蛍を、今度は自分が守らなければ。
歯を食い縛り、拳を握る。
意を決したように、童磨へと足を踏み出した。
「ああ」
蛍しか見ていなかったはずの童磨が、不意に頷く。
「はい、捕まえた」
ぽん、とその手が触れたのはテンジの背中だった。
びくりと体を震わせ振り返るテンジの背後を取った童磨が、蛍を抱いたままにこにこと笑っている。
「あははっ面白い顔してるねえ。鬼ごっこを始めたのは君なのに、なんで驚くのかな?」
「ぁ…ぅ…」
「蛍ちゃんはこんな状態だし、これで俺の勝ち。かな?」
テンジや蛍、童磨の体に浮いていた三竦みの模様が、音もなく消えていく。
遊びの終わりを告げる様に、うんうんと童磨は満足そうに頷いた。
「やっぱり俺の勝ちみたいだ。それじゃあ約束通り、俺の望みを聞いてもらおうか」
「っ…」
「そんなに怖がらなくてもいいよ。取って喰ったりはしないから。さっきはああ言ったけど…なんとも面白い術を持っているようだし。俺にその術のことを色々教えてくれるなら、君の体を俺の糧にするのは止めよう」
蒼褪めた顔で後退るテンジに、腰を屈めたまま童磨は笑顔を崩さなかった。
「その代わりに何ができて、何ができないのか。蛍ちゃんにかけた術のことも一言一句残さず全て、俺に教えておくれよ」
片手を促すように差し出す。
それは誘いのような温かいものではない。
有無言わさない強制だ。