第26章 鬼を狩るもの✓
ナメクジ、蛙、蛇。
ナメクジは蛙に捕食され、蛙は蛇に丸呑みにされ、蛇はナメクジに溶かされる。
それぞれが互いに得意なことと苦手なことを持ち得ており、三者共に身動きが取れなくなってしまうこと。
それが"三竦み"である。
火は水に消火され、水は葉に吸い取られ、葉は火に焼かれる。
身動きは関係なしに、それぞれの弱点を備えた鬼ごっこであると、童磨はすぐに理解していた。
「かえる、なめくじ、たべる。へび、かえる、のむ。なめくじ、へび、とかす」
「え、えっと……ん? ナメクジって蛇を溶かせるの?」
「いいつたえ」
「あ、成程。そういう迷信みたいなものが伝わってるってことか…待って。テンジ、私より頭いいね」
「いろおに。どーま。みず。だから、てんじ、の、おに」
「ええと…童磨が水で、テンジが火だから…そっか。水は火を消せるから…水の方が強い。童磨の方が強いから、テンジを追いかける鬼。ってこと?」
「そう」
「成程。やっぱりテンジ頭いいなぁ。じゃあ私が葉だから、えーっと…水…を葉は吸うものだし。火、に焼かれる? あ、葉っぱは火に弱いのか。だから私はテンジ…に…」
「そう」
ふむふむと頷いていた蛍が止まる。
こくんと頷く少年の顔は、驚く程冷静だった。
真っ直ぐに蛍を見つめたまま、ぴくりとも笑わない。
「てんじ、が。ほたる、の。おに」
幼い手が、蛍を指差す。
「てんじ。ほたる、くう」
まるで日常会話を交わすかのように、さらりと拙い声が告げた。
肌に違和感。
テンジに世界を回された時のような、不可思議な感覚が肌に走る。
「っ」
蛍は咄嗟に、身を退こうとした。
しかし片足を無くした体は、僅か数mm程度しか後退ることができない。
なんなく伸ばした幼い両手が、蛍の両腕をぎゅっと握る。
にんまりと形の良い唇が弧を描く。
薄く開いた先には、鋭い犬歯が覗いていた。
「ほたる、つかまえた」