第26章 鬼を狩るもの✓
「ぃゃ…そと、こわい。みんな、こわい」
「(皆?)…酷い目にあったの? これからは私が守ってあげるから」
「ほたる……はは」
「はは?」
あやすように頭を撫でれば、テンジの顔が胸に埋まる。
小さな手は片時も離すまいと、蛍に縋った。
その姿はまるで、
「(それって…)…お母さん?」
母を求める子のように。
「ってことは与助がお父さんで、私がお母さん?…いやいやいやいやないないないない」
「ちち、いらない…ほたる、はは、が、いい」
思わず真顔で頸を横に振り続ければ、泣きそうなか細い声が懇願する。
とても鬼には見えない、弱々しい幼子のような姿に声が詰まる。
「テンジのことは、好きだけど…私は、テンジのお母さんにはなれない、よ」
それでも頸を縦には振れない。
そう、と再び小さな頭に触れてゆっくりと呼びかけた。
「でも、テンジの友達にならなれる。お姉さんでも、いいかなぁ。あ、私には千寿郎くんっていう素敵な義弟がいるんだけどね。テンジも一回会っ」
「ぃゃ」
きゅ、と小さな手が拳を握る。
「ほたる、だけ。いい」
埋めていた顔を上げたテンジの瞳が、蛍だけを一心に捉えた。
「みんな、いらない」
きりきりと、団栗眼の瞳孔が縦に割れる。
一度だけ見た、テンジの鬼の片鱗だ。
「おとな。こわい。いたい、する。みんな、こわい」
「…私も、その大人の一人だよ」
「ほたる、ちがう。さけぶ、しない。いたい、しない。おいていく、しない」
「置いていく…? それって全部、誰かにされたこと?」
最初は与助に酷いことをされているのだと思った。
しかし置いていくという言葉は、どうにも当て嵌まらない。
だとすれば他にテンジに怖い思いをさせた大人がいたのか。
「みっつ。いろおに。てんじ。ひ。ほたる。は」
蛍の問いかけにテンジは応えなかった。
再び歌うように遊戯を口にする。
その言葉に、鬼ごっこの最中であったことを思い出す。
「そういえば三竦(さんすく)みの鬼ごっこって? 確か、火と水と葉っぱ、だとか」
「なめくじ。かえる。へび」
「なめ…え、なんて?」
「みっつ。たべて、たべられる」