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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第3章 浮世にふたり



 檻の中でふたり。
 あの時のように刀を向けることもなく、不意に彼は腰を下り身を屈めた。
 座り込んでいる私と同じ目線に合わせて、じっと顔を覗いてくる。


「?」


 なん、だろうか。
 殺しに来た訳じゃ、なさそうだけど…それでも一度はその死を覚悟した相手。
 緊張気味に体を硬直させていると、唐突に彼は言ったのだ。


「お前と同じ眼をした鬼がいた」


 私と、同じ…?


「その鬼は人間である兄を庇い、守ろうとしていた」


 耳を疑った。
 でもこの男が嘘を付かない人間だということは、知っている。
 だって…あばら家を去る前に、姉さんの体を丁寧に陽の下に埋葬してくれたから。


「お前と同じ、家族を思う眼だった」

「っ」


 今でも姉さんと暮らしていた頃を思い出すと、胸が締め付けられるように痛む。


「その…鬼は、兄を守れた、の?」


 私は守れなかった。
 救えなかった。
 …殺して、しまった。

 私と同じ道を、辿ってしまわなかっただろうか。
 気付けば縋るように問い掛けていた。
 願わくば、違う道であって欲しい。


「ああ。正確には、人間である兄の方が鬼を守っていたな」

「人間、が…」


 不思議と驚きはしなかった。
 だって私の姉もそうだったから。

 私が私でなくなったことを、あの死の瀬戸際でも気付いていたはずなのに。
 牙を生やし血を求め言葉を失い、男達を引き裂いた私を見ていたはずなのに。

 死ぬまで変わらない、優しい姉さんのままだった。

 でも、気になるのは全て過去形で話されていること。
 その鬼は…その人間は、助かったのだろうか。


「その鬼と人は…? 此処へ?」

「連れて来てはいない。兄はただの人の子だ」

「じゃあ…鬼だけ…」

「あの二人は共にいて意味がある。だから育手に預けた」


 そだて?

 知らない言葉に困惑するけど、この人は逐一丁寧に教えてくれやしない。
 此処へ連れて来られてから数ヶ月経つのに、未だにわからないことが多いのもその為だ。


「鬼である妹を治し、家族の仇を討つと俺に啖呵を切った。そいつが死ぬ気の覚悟で上がろうとするなら、いつか此処へ来るかもしれない」

「っ…その、鬼と人の子の…名前、は?」

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