第26章 鬼を狩るもの✓
「蛍を捜すと言ったな。居場所を知らないのなら、生かす要素はない。この場で頸を斬る」
花街での出会いを経て、蛍は童磨は話の通じる鬼だったと言っていた。
この短時間のやり取りで、杏寿郎も十分上弦の鬼の底を知れた。
話は交えられるが、通じ合えはしない。
蛍のことを本気で理解しようとすれば、そんな涙など出てこないはずだ。
童磨は正真正銘、鬼の意志に染まった者。
斬るべき対象であると。
日輪刀を体に沿えるようにして、後ろに構える。
腰を低く、斬撃の初歩の構えを取る杏寿郎に、表情を止めた童磨の足元が──ぴしりと鳴いた。
「…酷いな。俺は本当に、蛍ちゃんのことを大事に思っているのに」
ぴしり、と藍色の夜空が戦慄く。
「同じ鬼だから、人間の手から救いたいって。君こそ人間なのに、鬼の心を根底から理解できる気でいることこそ可笑しな話だ」
ぱきぱきと夜空の地面が白く変わっていく。
空気中を舞う塵が、きらきらと星屑のように輝き出した。
「君は、喉が枯れ果て胃が砂地になるような、耐え難い空腹を知っているのかい。声にもならない、言葉にも出せない陽に皮膚を炙られ焼かれる痛みは? 口先ではどんなに蛍ちゃんを思いやれても、鬼としての感覚を共有することはできないだろう」
開いた扇で、口元を隠す。
虹色に光る瞳が、すっと細められた。
「だから君の父親は、蛍ちゃんにあんな惨い仕打ちができた」
ぴくりと、日輪刀を構えた杏寿郎の手元が微かに震える。
「人間に牙を剥くことは悪。だから斬る。陽に嫌われた者は世界からも嫌われて然るべき。だから斬る。鬼狩りは皆、口を開けば呪文のように同じことばかり。俺達の頸斬りしか頭にない」
ゆっくりと扇を下へと引き、表情を見せた童磨はもう笑ってはいなかった。
「そんな君達の吐く理想なんて、それこそただの綺麗事だ。〝蛍ちゃん(おに)〟とは一生交わらないものだよ」
そよ風にでも吹かれるかのように、ゆらりと扇が微かに揺れる。
「反吐が出る」
刹那、びしりと空気が割れた。