第26章 鬼を狩るもの✓
「うんうん。少ない情報で最善の手を打ち出す。判断が早いね。流石、蛍ちゃんを掌握できるだけの鬼狩りだ」
「…知った口で俺と蛍のことを語らないでもらいたい」
みしりと、杏寿郎の額に血管が浮く。
返答は静かなものだったが、滲み出る闘気には殺伐とした気配が入り混じっていた。
「そうかなあ。俺だって少しばかりは知っているよ? 蛍ちゃんと君が、交合を重ねる間柄だってこと」
気迫ある杏寿郎に対して、童磨の表情は衝突した時から何も変わらなかった。
「俺も人間の女の子と恋愛ごっこをしたことがあるから、否定はしないよ。人間であっても鬼であっても、可愛い娘(こ)は可愛いからねえ。君が蛍ちゃんに夢中になる気持ちもよくわかる」
にこにこと笑みを浮かべていたかと思えば、太い眉が哀しげに八の字を描いた。
「でもだからって与える血を制限したり、陽の下を無理矢理歩かせるのはよくない。俺達鬼は、人間とは違うんだ。そんな苦痛、拷問でしかないんだよ…耐える蛍ちゃんを見ているだけで、俺の心も凄く痛かった」
つぅ、と童磨の瞳から涙と言う名の雫が細く伝う。
「健気で良い娘だよね…だからこそ利用しちゃいけない。鬼である蛍ちゃんも尊重してこそ、対等な関係と言えるんじゃないかな。君の愛し方は、蛍ちゃんをただ掌握しているだけだ」
「(見ている? 監視されていたのか?)…やはり蛍の何をも知ってはいないな。彼女のことを知っているなら、そんな感情は浮かばないはずだ」
鬼の目に涙。
その様に杏寿郎は驚くことなく、思考を回しながら淡々と切り捨てた。
表面を取り繕っただけの同情。
そんなもの蛍が一番嫌うものだ。
「"ごっこ"などと遊びでしか他人の心を計れないお前には、同じ鬼であろうとも蛍のことを断片でさえも理解はできまい。一生交わらないものだ」
冷たく諭す杏寿郎の言葉に、初めてぴたりと童磨の表情が止まる。