第26章 鬼を狩るもの✓
「これはこれは」
緩む童磨の口元が、尚も深く弧を描く。
「鬼狩りの中で一番会いたかった顔だ」
扇に全体重をかけて斬りかかる男──煉獄杏寿郎を見つめて。
「生憎と認識はない…ッ!!」
飄々と笑う童磨の問いに、杏寿郎が間髪入れず否定する。
二人のせめぎ合いに勝敗はつかなかった。
鉄同士の摩擦により、火花を散らして跳ね返った日輪刀と扇が離れる。
「だがお前のことは知っている。──上弦の弐。童磨」
「あは。蛍ちゃんに聞いたのかい?」
童磨の口から蛍の名が零れ落ちた途端、杏寿郎の目の色が変わった。
合わせ鏡により飲み込まれたこの世界は、何処かしこからも鬼の気配がした。
その中でより一層強いものを辿っていけば、見つけたのは出会ったことはなくとも知っている鬼だった。
特徴的な見た目は、蛍の報告と一致する。
何よりその輝く虹色の瞳の中に刻まれた文字が証拠だ。
まだ一度も出会ったことのない、上弦の鬼の一人。
「蛍を何処へ隠した!!」
「この世界の創造主は俺じゃないよ~。俺だって今から蛍ちゃんを捜しに行こうとしていたんだから」
間髪入れず、弾丸のように次々と斬撃を打ち込んでいく。
杏寿郎の剣捌きは常人の目で追えないものだったが、童磨は笑顔を絶やすことなく受け流し続けた。
「君と戦り合うのも楽しそうだけど、今は鬼ごっこ中なんだ。それが終わったら相手してあげるから」
日輪刀が退いた一瞬の隙を突いて、しゃりんと扇を開く。
ひやりと、杏寿郎の肌を冷たい空気が撫で上げた。
「それまで待っていてくれないかなあ?」
「ッ!」
きらきらと空気中の小さな粒が煌めく。
それがなんなのか把握する前に、杏寿郎は童磨から距離を取るように飛び退いていた。
呼吸業を極めた者だからこそわかる。
吸い込む空気の流れが、温度が、変わった。
"あれ"を体内に入れれば毒と化す。