第26章 鬼を狩るもの✓
童磨のことを例の件で責め続ける気はなかったが、許した訳でもない。
はたから見れば強姦と等しい行為だった。
いくら身売りの経験があろうと言えど、全く傷付いていない訳ではない。
その心根が顔に出ていたのか。否か。
「蛍ちゃ──」
童磨が触れるより早く、ぎゅっと蛍の腕に抱き付く温もり。
「…テンジ?」
しがみ付くような、縋り付くような。曖昧な様子で蛍の腕に細い両腕を絡めていたのは、始終童磨に怯えていたはずのテンジだった。
その目は揺れ動くことなく童磨を見据えている。
「みっつ。いろおに。おわれて。おって」
告げる言葉は相変わらず単語を切り取ったような辿々しいものだったが、どこか歌うように流れ出る。
「てんじ。ひ。ほたる。は」
「は? はって何…え?」
少年が告げれば、それが合図のように。
ぼう、とテンジの頸から頬にかけて、燃ゆる灯火のような模様が浮かび上がる。
同じく蛍の手首から腕にかけて、蛇のようにするりと蔦を伸ばす葉の模様。
急な出来事に思考がついていかない蛍を置き去りにしたまま、テンジは童磨を指差した。
「み」
幼い声が告げた途端、童磨は胸元に違和感を覚えた。
襟に指先をかけて服の下を覗けば、垂れ落ちる雫のような模様が点々と見える。
「成程…火と葉と水。三竦みの鬼ごっこというやつかい?」
「何、さんすくみって…」
「とお。かぞえて」
ふわりと、テンジの髪が風もないのに揺らぐ。
肌を震わせるような違和感に、蛍が気付いた時。
「おに、ひとり。のこる。かち」
──カシャン、
世界は再び廻った。